あの笑顔すらも、過ちだったというのでしょうか。





「…本当に久しぶりです。大きくなりましたね、戦人君。」
「何の御用っすかね。わざわざ、”こんな時”に。」
戦人の表情は笑みを貼り付けてはいるが、焦りが滲んでいるのを隠せない。
この人物の妨害は、何となく予感はしていた。だからこそ今まで決して彼女の駒だけは孤立させず、顕現できないようにしていたというのに。
意識していなければ舌打ちでもしてしまいそうだった。あぁ、やっぱり自分はツメが甘い。
「決まっているでしょう。…あなたを止める為ですよ。」
「はッ。12人も死んだこの状況で?何を今更。」
「…ですが、あなたが実の親を手にかけることは避けられます。」
先代ベアトリーチェのその言葉に、一瞬で戦人の表情が凍った。ぴしりと、氷の軋む音すら聞こえそうなほどに。
「…俺の親はベアトだけだ。」
「いいえ違います。あなたは右代宮の子。右代宮留弗夫と明日夢の息子です。」
冷静に断じるその言葉に、頭の中で何かが切れる。己の根幹をなす真実を、否定される。
言いようの無い怒りに、先程とはうってかわって、顔を歪めて戦人が叫ぶ。
「っ黙れええぇえぇえぇッ!!俺を、俺を愛してくれたのはベアトだけだ!だから俺の親はベアトだけなんだッ!!」
小さい子供が駄々をこねるような、そんな我武者羅な叫びだった。必死で、悲痛な叫び声。
「確かに、ベアトリーチェはあなたを愛しているでしょう。けれど、それは間違っていたのです。その結果が、この惨劇なのですから。
 あなたを幻想に、引きこむべきではなかった。ですから私は、あなたを止めねばなりません。」
はっきり、きっぱり間違いだと言い切った彼女に反論したのは、けれど戦人ではなく別の声であった。
「おいおいお師匠様ァ。黙って聞いてりゃ随分な言い様じゃねぇかよォ。」
光り輝く黄金の蝶を散らしながら顕現した魔女の姿に、ベアト、ベアトリーチェ、と二人の声が重なる。
ベアトリーチェが庇うように、戦人の前に歩み出る。己の師と相対する彼女の眼差しに、迷いは無い。寧ろ、純粋な敵意。
我が子を己から取り上げられようとしている。そんなことが受け入れられる訳がない。
だってそう、この12年。彼を愛していたのは、紛れも無くベアトリーチェなのだから。

「下がっておれ、戦人。」
静かな魔女の言葉に、戦人はでも、と抗議の声を上げる。自分のゲームなのに、母に手間をかけさせるわけにはいかない。
納得のいかない戦人の様子に、ふふ、と柔らかく微笑んで。ネクタイを軽く掴み、彼の耳元へ口を寄せる。
「お師匠様の相手は、そなたには荷が勝ちすぎるというものよ。いいから、ここは妾に任せておけ。」
睦言のように甘く甘く囁いて、こめかみに触れるだけの口付けをひとつ落として、顔を離す。
不承不承、といった風ながらも身を引いた戦人を見やり、ベアトリーチェは再び師と向き合った。
「…ベアトリーチェ。本気で戦人君に、家族を殺させる気ですか。」
「何を言ってんのか分っかんねぇなぁお師匠様。戦人の家族は妾一人だが?」
睨みあう二人の魔女の間で魔力がぶつかり合い爆ぜる。腹の底を揺るがすような爆音が、薔薇庭園に響いた。
それを合図にするかのように、金と銀の魔女がそれぞれ地を駆ける。





爆風の残り香に、真紅の薔薇の花弁が一枚、はらりと散った。





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