ひとりぼっちのきみたちへ。
phase 08
少年が、剣を振るう。
何かに焦がれるような、何かを求めるような。もがき苦しみ、溺れてしまいそうな瞳のまま。
重い剣を、カイネルは巧みに受け流す。まともに受け合えば、こちらの剣が危ない。
それだけ彼の剣は、重い。カイネル自身も、こうして撃ち合っていることが信じられないくらいに。
鈍い金属音が響き、両者が一旦距離を取る。ざぁ、と砂埃が舞った。
「カイネル、」
弓を番えたまま、エルウィンが呼ぶ。
「…手を出すなと、言った筈だ。」
「そんなこと言ってられる状況じゃないでしょ!まだあと後ろの仮面も倒さなきゃなんないんだから!」
言うが早いか、風の精霊を乗せた矢が放たれる。
疾風を纏い猛進する矢。屈強な鎧すらも打ち砕く、エルウィンの必殺の矢であった。
それを。常人には避けることすら叶わないそれを、少年はただの一振りで叩き折る。
エルウィンが短く、驚きの声を上げる。その声に弾かれるように、今度はヴォルグが地を駆ける。
咆哮と共に繰り出された鉤爪を、後方に飛び、かわす。瞬間横合いから、ラザラスの斧が振り下ろされる。
それを受けようとして…しかし流石に竜人族の力は受け切れなかったのだろう。
流し、間合いを取った少年を左右からマオの炎弾とブランネージュの氷弾が狙う。完全に、死角を突いた攻撃。
けれど、ブランネージュの魔女の血が、魔力の高まりを感知する。何故。エルフでもないこの少年が!?
戸惑いに見開かれたブランネージュの視線の先で、蒼天の戦場に稲光が落ちる。
まるで蛇のように執拗な動きで踊り狂い、正確にマオとブランネージュの攻撃を打ち据えた。
「……逃げて下さい。今のアスクレイ様の目的は、あなたがたを殺すことじゃない。」
『指輪を置いて、が抜けていますよ。』
静かな少年の呟きを、仮面が追う。
『指輪は元々、この子のもの。貴方方には過ぎた玩具です。』
じりじりと肌を焼くような、異様な気配。耐え切れずにマオが、煙幕を発生させる。
ヴォルグの、退け!という怒号に操られるようにして、勝手に足が動く。
ああ、またひとりにしてしまった。
頭のどこかで、ぼんやりと呟く己がいる。
next phase 09
TOP