ひとりぼっちのきみたちへ。
phase 07
乾いた風が、吹きすさぶ。砂埃を乗せた、黄色い風が。
まるでその出会いを、邪魔するかのように。
…乾いた風が、吹きすさぶ。
悪夢ならばこの大戦の中で何度でも見てきたけれど、今回のそれは群を抜いて酷いと、マオは思う。
妙な機械から次々生成される妙なモンスター。ご丁寧に毒まで持って。
…でも。さっきから頭に響く、警鐘は何?
がんがんと煩いそれは、目の前の光景に対してのものではない。ならば何に?
これ以上酷いことが、起こるっていうの…?
「…どうやらこの奥だ。…いくぞ。」
カイネルの声に、逸れていた意識を引き戻す。集中しろ。今ここでやられたら何にもならない。
クナイを握り直し、敵の本陣と思しき場所へ突入する。
そこは、クレーターのような吹き溜まりだった。ここにもやはり件の機械が据え付けられ、
ガス状の奇妙なモンスターを生み出していた。
けれど、そんなことは気にならないくらいの、衝撃。
「アンタは…!」
後を追ってきた仲間たちも、一様に目を瞠る。
頭部をすっぽりと覆う、黒い仮面。魔力とは縁遠い自分でも分かる、異様な気配。
かつての勇者にして、変貌したルーンガイストを率いる軍師、アスクレイ。
『これは、これは。ようこそ、ヴァイスリッターの皆様方。』
幾重にも折り重なるような不気味な声が、場を支配する。
一同を見渡していた仮面の目が、指輪を捉えたような気がする。指輪を嵌める左の人差し指が、疼く。
『指輪も大事に扱っていただけているようで、何より。…ですがそろそろ、返していただきましょうか。』
「なんだと…!?」
「ふっざけんじゃないわよ!アンタみたいな悪役に渡したら、どうなるかわかったもんじゃないわ!」
仮面の言葉に、エルウィンが吼える。既に引き絞っていた矢を、そこで放つ。
が、そんな矢が通るほど敵も甘くない。するりと、矢のほうが避けるように軌道が逸れる。風の魔法だ。
『…私が手を下すまでもない。…少し遊んでおあげなさい。』
そうして、奥から現れた人影は。
「…ッ!」
「…、キミ…あの時の…!」
剣を構える姿を見るのは初めてだった。あぁ、やっぱり、似合わない。
場所も、状況も丸っきり違うけれど、そのどうしようもなく孤独な目だけが、同じで。
『殺してはいけませんよ。彼らにはまだまだ、働いてもらわねばなりませんのでね。…さぁ。指輪を、あるべき場所へ。』
仮面の声に、少年が地を駆ける。
―――その淋しい、瞳のまま。
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