それでも。いつか。いつかきっと。
…そんな未練を、終わりにしましょう。私の未練を、終わりにしましょう。





「悪いが、さっぱり覚えがねぇな。」
その言葉が彼の口から発せられたとき湧いたのは悲しみとか、怒りとかそんなものではなくて。
(あぁ、やっぱり。)
それは未練を断ち切るきっかけを得たことによる、安堵だったのかもしれない。

そもそも始めから、成立しない賭けであることは分かり切っていたこと。
それでもゲームを4度繰り返してしまったのはやはりどうしても、諦めきれなかったから。
(だって私は、あなたのために生まれたのだから。)
(あなたの為に私は生まれ、それ故に私は歪む。)
もしかしたら。…もしかしたら。一縷の望みをかけて手を伸ばしてきたけれど。
ねぇそうでしょう私。ベアトリーチェ。分かっていたことじゃないの。

1986年の六軒島に、彼は―――




さやさやと、風の音だけが世界に満ちる。
そこには、たった二人。けれどもうベアトリーチェには、それだけで、充分だった。
世界を構成するための最小人数は二人。けれどきっと、それこそが最良の姿。
真里亞と共に黄金の薔薇が風にたゆたう様を見つめながら、魔女は無理矢理に笑みを作る。
これで良かったのだ。これで、良かったのだ。…これで。これで…良かったのだ。

目を閉じると、未だ瞼の裏には先ほどの彼の顔が浮かぶ。
断末魔のような叫び声が、今もはっきりと耳に木霊して離れない。
存在を否定された彼の、苦悶、悲痛、絶望。しかしそれは彼の罪。背負って然るべき罰。
だから、これで。
「………これで。良かったのだ。」
黄金の花弁だけがその小さな呟きを拾い、そして落とさぬようそっと風に乗って消えていった。





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