地獄に、落ちたと思った。
けれど本当は、まだ地獄の入り口に立ったにすぎなかったのだ。





空白は、ほんの一瞬。容赦無く続けられる律動に、すぐに引き戻される。
汗が目に沁みて、痛い。否、目だけじゃない。全身が悲鳴を上げているようだった。
他人事のように耳に入ってくる声は、自分のものとは思えないような、はしたない声で。そんな声を上げてしまうことが、悔しくて、悔しくて。
けれど、止められない。中で大きなものが暴れまわる度に、甲高い声を上げてしまう。喉はもうカラカラで、普通に喋ることだって辛いのに。
「ひッ、あ、ンっ、うぁん、っ…あ…っあ、ああ…!」
「っ、大分…慣れてきたみたいだなぁ、ばーとらぁあ?だから言っただろォ、すぐにキモチヨクなるってさぁ!…じきに、これなしじゃいられないように
 なるぜぇ。もっともっとって、お前から欲しがるようにしてやるよォ!」
掻き乱された思考では、捕食者の言う意味を半分も理解することは出来なかった。ただぼんやりと、まだ終わらないのだということだけは、
分かった。…それだけで、絶望するには充分だった。
不意にシーツを掴んでいた手をついと取られ、手首の内側に啄ばむような口付けが落とされる。それだけで、たったそれだけなのに、
戦人の身体は面白いくらいに跳ねた。
我が物顔で己の身体を蹂躙する魔術師が触れる箇所全てが、忽ち熱を持って戦人を苛む。触れ合うそこから、作り変えられていくかのように。
浮いた下腹部を乱暴に押さえつけられる。圧力に、中に注がれた液体が抗議を上げるようにぐぷりと音を立てた。
一体、何回流し込まれたのだろう。どれだけのものが、流し込まれたのだろう。考えるだけで、おぞましい。
どろどろぐちゅぐちゅした汚らわしいものが今この瞬間にも己の体内に溜め込まれているのだと思うと、それだけで首を掻き切りたい衝動に襲われる。
あまつさえそれが、憎くて憎くてたまらない男のものだと、思うと…!
吐き出したい罵声も絶叫も、形になりはしない。鼻にかかった甘い声だけが、彼女に許された言葉。

不意に。戦人が一際高い声を上げた。恐怖を瞳いっぱいに湛えて見上げてくる彼女に、魔術師は哀れむように微笑んだ。
「も、もう…!や、もういや、やだ、やだぁああぁあやぁあああぁ、なかは…、っ、なか、は、もう、…っいやあああぁあ!!」
「そら。ぜぇんぶ出してやるからなァ!よっく味わえよォ家具ぅ!!」
彼女の悲痛な懇願とは裏腹に、容赦なく最奥に、白濁が叩きつけられる。ゆっくりとゆっくりと、時間をかけて全てを注ぎ込む。
戦人の意思も苦痛もともすれば快楽すらも全く無視したその行為は、性交というよりむしろ自慰に近かった。

ようやっと満足したのだろうか。穿たれた杭が、微かな水音を立てて抜けていく。
解放されても荒い息は収まらず、熱は渦巻くばかりで出口が見えない。嫌だ。もう嫌だ。こんなのは嫌だ…!
相変わらず質の悪い笑みを貼り付けた魔術師が、また手を伸ばしてくるのが見えた。嫌な予感に凍りつく。
脇腹を撫ぜた手が、いやらしい手つきで腹を辿り胸まで辿りついたことで予感が確信に変わる。終わらない!まだ終わらない!!
あまりの絶望に、彼女は遂にパニックを起こした。意味の分からないことを口走りながら魔術師の頬を思い切り殴打する。
虚を付かれて身体を離した隙を突いて、彼の下から抜け出す。逃れたい、その一心で。
ベッドから降りようとしたところで首枷から伸びる鎖を引かれ、戦人の逃走は終わりを告げた。
たったの五秒にも満たないその逃避行は、けれど魔術師の機嫌を甚く損ねたようだった。冷え切った青の瞳が、無情に家具を見下ろす。
「まぁだ逃げる気力があんのかぁ。ほんっとにお前は、手のかかる家具だよなァ!否、結構結構!そうでなくっちゃなぁ!おもしろくねぇよなぁ!
 …いいぜぇ。物分りの悪いお前でも、もう絶対に逃げようがないッて分かるようにしてやるよ。」
宣告に、思いつく言葉の限りで許しを請うが、…後の祭り。
右足を、抱え上げられる。無意識に身体を捩り逃れようとするが、がしりと固い腕の戒めから逃れることは出来なかった。
形の良い爪に一つずつ口付けを落として。魔術師の右手が、戦人の白い足を這う。太腿の裏から始まり、膝裏、脹脛、そうして、足首で、止まる。
変わらず懇願を続ける戦人に、魔術師は酷く綺麗に微笑みかけて…そうして掌に、魔力を込める。

―――瞬間。戦人の身体を例えようのない痛みが、駆け抜けた。

ぶつり、とか、ぶちん、とか。とにかく何かが荒々しく千切られるような感覚。何が起こったのかすら解らず絶叫し悶え苦しむ。
痛みにうち震える彼女を魔術師は優しく撫ぜてやったが、果たしてそれを知覚できているかどうか。
「っは、ぅああああぁぁああ、っあ、いたいいぃぃいいぃいい、あ、う、っぁあああぁああああ!!」
「…そなたの足の腱を切った。これでもう右足は使い物になんねぇなァ?両手足切り落とすのもアリかなと思ったが…あぁんまり原型損ねても…
 なぁ?美しいそなたを、なるべくならそのまま愛してやりたい。我は優しいだろう?戦人ァ?」
魔術師が手を離した足首に浮かぶ、黄金の蝶の痣。蝶の形をしているが、彼女の自由を奪い去り食べ尽くす蜘蛛なのかもしれなかった。
力の抜けた右足をそっと、そぉっと。壊れ物のように(否、実際壊れているのだけれど)シーツの上へと置いて。
さも当然のように、同じように左足を抱え上げる。その意図は、これ以上ないくらいに、明白。
引き攣った声を上げながら制止する戦人の叫びが届くことは、やはり無かった。
優しく、優しく足首を、おおわ、れ、て、あ、だめやめてなんでもいうことききますもうにげませんだからおねがいですやめてくださいいぃいい!
制止が懇願に変わり、懇願が絶叫へと変わる。

痛い。痛い、痛い、痛い。
どうして?どうしてこんな思いをしなくちゃならないの?痛めつけられて、甚振られて、玩ばれて、嬲られて。
助けを呼んでも、誰も来る訳が無い。抵抗しても、この男に力で敵う訳が無い。逃げようとしても、この様だ。…もう、嫌。もう、疲れた。
そんな思いなんて、この男に届きはしない。力の入らない足を広げられて・・・、また…!
「っん……う、ぁ…!」
「壊れてしまえ。そなたに最早思考など必要あらず。ひたすら従順に、我を受け入れさえすればそれで良い。たったそれだけで、そなたは
 全ての苦痛から解放されるのだ。簡単な事だろォ、戦人ぁあ?壊れろよ、壊れちまえよぉお!」
激しい律動の最中囁かれた言葉に、戦人は遂に陥落した。もう、楽になれるのならば、…なんだって、いい。

虚ろな目から一筋、涙が零れて落ちた。




相変わらず揺さぶられる身体は熱くて、あれ、でもどうしてこれを痛いなんて思えたのだろう。
主を受け入れるそこは、もうぐじゅぐじゅに溶けきっていてどこが境目なのか疑問に思えるくらい。
突き上げられて、突き上げられて、あぁ、どうしようもなく、気持ちいい。どうしよう。欲しい。欲しくて欲しくてたまらない。
「…っと、も、っと…く、くださぃい、こ、この、い、いや・・・らし、い、かぐに…っあ、んんっう、ひっ、いいですぅう、ベアトリーチェさまぁああ、
 き、きもち、いいですぅうううぅ、んぁああ、っう、あつぅ、い、あつい、れすぅ…ベア、トリーチェさまの、あ、あつくて、お、おっきぃいぃ、っふ、あ…!
 ああぁあ、あ、そ、そこぉ、ら、らめ、もっとぉおぉ、くださいぃいい、ベアト、ベアトリーチェ、さまあああぁ、っぅああああん、んぁあああう、あ!」
名前をお呼びすると、イイトコロを突いてくださるの。愚かな家具の身を、こんなにも愛してくださる主は、何て偉大な方なんでしょう。
どうしてこんなにも深い愛を、痛いだなんて思えたのだろう。嗚呼本当に自分は愚かだ。愚かで浅ましい。
こんなにも、こんなにも愛を注いでくださっているというのに。
搾り取るように乳を鷲掴みにされて、きりきりと痛むそれすら快感。主の長い指が、いやらしく立ち上がる先端までも丁寧に愛してくださる。
あぁ、駄目、吸わないで。感じてしまう。こんな、こんなにも愛されて、なんて幸せ。
中に入れてくださったものが、また大きくなって、ああまたあの熱いものを、くださるのだ。
「…っ、出すぞ戦人。よぉく締め付けて、一滴も残さず飲み干せよぉお?」
「っはい、はい、ベアト、リーチェさま、くださ、い、っ、あ、はげし、もっと、も、っとぉ、あ、っあ、ああぁあああ、ひぁあああぁああ!」
中に広がる、温かいもの。主の深い愛。や、まだ、でてきて、こぼれちゃう。
零したくなくて精一杯締め付けたら、主が笑って頭を撫ぜてくださった。嬉しい。
「まだ足りないよなぁ、戦人?もっと欲しいよな?もっともぉっと、愛されたいよなぁあ?」
「べ、ベアトリーチェ、さま、は、はい、も、もっと、このおろかな、かぐめに、ベアトリーチェさま、を、おあたえください、ませ…!」
はしたない家具の願いにも、主は応えてくださる。熱いものが、また掻き回してくださる。
もっと、もっとください。もっとこのいやらしい家具を、愛してください。


何か、大事なことを忘れている気がするのだけれど、主の与えてくださる愛に比べたらきっとどうでもいいことに違いない。
溺れたい。ただひたすらに―――溺れていたい。





部屋の片隅。放置されたチェス盤の上から、ころりと白のキングが落ちた。





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あとがき。

好きなものを好きなように書こうとした結果がこれだよ!

(09.11.06)





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