もう誰にも、止められるものか。





誰のものとも知れぬ悲鳴が、神聖な礼拝堂に響く。
布きれを容赦なく引き裂いたような。甲高い声が礼拝堂の壁という壁を跳ね返って木霊する。

両親の遺体に駆け寄ろうとする朱志香を、嘉音が必死の形相で押し止める。
彼だって、姉と慕った紗音や、尊敬する源次の傍へ飛んでいきたい筈だろうに。
息子を残酷極まりない形で奪われた絵羽は最早半狂乱で秀吉に泣きついている。
楼座と霧江は幼い真里亞と縁寿に惨劇を見せるまいと懸命に彼女らの視界を塞いでいた。
だから留弗夫は、ただ一人立ち尽くす。魔女の宴の前菜を、全てその目に焼き付けてしまう。
「何の…冗談だってんだ…こりゃあよう…!」
ぽつりと口をついて出たその呟きが、偶然絵羽の耳に入る。
「冗談!?アンタにはこれが冗談に見えるっていうの!?いい目をしてるわぁ!医者に行って取り替えてもらいなさいよぅ!
 譲治が、こんな…うぅううぅううう、譲治、譲治ぃいいぃい…!」
崩れ落ちた絵羽の背を、秀吉がゆっくりと摩る。子供さながらにしゃくりあげる彼女を、必死に抱きとめる。


食堂で発見された血溜りと、古めかしい鍵。
そうして誘い出されるようにして辿りついた礼拝堂は、この世から切り離されたかのような光景が広がっていた。
遊ぶだけ遊んで放り出したかのような。様々な玩具が足の踏み場も無いほどに散らばり、それに紛れて、何人もの、死体が…!
人としての尊厳を徹底的に踏み躙った、殺し方だった。それぞれが、壊れた…否、壊された玩具の様相を呈して放り出されていた。
ある者は全身の関節があらぬ方向へ捻じ曲がり、ある者はぬいぐるみの綿が飛び出したが如く、真っ赤な…真っ赤な…!!
あぁ、あぁ!口にするのも恐ろしい!おぞましい!
顔が確認できるのは蔵臼、夏妃、譲治、源次、紗音。そして最後の一人は見るも無残に全身を焼かれていた。
「…南條先生。」
「金蔵さん、でしょうな。…足の指が6本ある。現時点では金蔵さんである可能性が…一番高い。」
南條が緩く、首を振る。親友の、そして彼の親類の死という現実を、医者である彼がそれ故に一番理解してしまう。
「ひ、一晩で六人も…!一体犯人は、何が目的なのでしょう…!!」
熊沢の、その「犯人」という単語に、朱志香がぴたりと動きを止める。一拍置いて、彼女の顔がぐしゃりと怒りに歪む。
「犯人は…まだきっと…この、島にいる…!殺してやる…私が、絶対に探し出して殺してやる…!殺してやる、殺してやるっ、殺してやる…ッ!」
血を吐くような絶叫と共に、朱志香が静止も聞かず猛然と駆け出す。慌てて嘉音が、後を追う。
二人だけでは危険だと判断し、続けて郷田も後を追いかけた。


雨の中を、朱志香が駆ける。
あてがある筈も無かった。でも、じっとしてなんていられない。6人もあんな風に殺されて!しかもその犯人はまだこの島のどこかにいる!
許さない。許さない、許さない、許さない…!絶対に、許さない!命乞いをしても許してなんてやるものか。
殺してやる。原型を留めないくらいに、ぶちのめして切り刻んで踏み潰してやる!これ以上ないくらい残酷に殺してやる!
生まれて初めて味わう、最高純度の殺意。それに酔わされたかのように、朱志香は雨と涙で滲む視界をものともせずに駆け抜ける。





そして―――その後を追う黄金の蝶が、一匹。





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