その瞬間。
世界が、はじけた。
「マオ!!」
神殿に響き渡る、声。
「…ッ、マオー!!」
どうして。どうしてそんなにアタシのことを呼ぶの。
アタシは、裏切り者なんだよ?
皆を…キミを、騙してた、酷いヤツなんだよ?
なのにどうして、呼んでくれるの?
剣を持つ本人に似ず、少し強引にも感じる太刀筋。
けれど刃が煌めく度に、確実に敵が倒れてゆく。
蒼天の戦場に雷が落ち、牛の血を引く獣人が纏めて倒れた。
「どけぇえーッ!!」
指輪が発動していない彼では考えられないほどの、叫び声。
背後から彼に迫る敵に、突然矢が射掛けられた。
一拍置いて、気の抜けた声。
「もぅ!一人で突っ走るなって、言ったのに〜!」
エルフの仲間は肩で息をしながら、指輪の片割れを人差し指に通した。
満ちる、光と力。
双竜の騎士の、降臨。
その戦いの結末など、言うまでもない。
シオンに手を引かれながら、マオは牙竜山を下っていた。
「帰ろう」と言ったきり、ずっと無言のシオンにマオは恐る恐る問うた。
「…シオンくん…怒って、る…?」
「……うん。…すごく怒ってる。」
前を向いたまま、そう答えるシオン。
あまりはっきり自分の意見を口にすることの少ない彼にしては、珍しい物言い。
「ほっとけばいいのに、アタシなんか…。」
ほとんど口の中だけで紡いだ言葉だったが、少し後ろを歩くエルウィンには何故か聞こえたようだった。
「アンタそれ、もっかい言ったら一週間皿洗いだからね。」
「…だって…。」
言い訳をしようとする自分に、エルウィンははあ、とおおげさに溜息をついて。
「アンタさあ、覚えてないの?アンタの処分決める時に、シオンが何て言ったか。」
「………。」
「マオのこと信じるって、言ってたでしょ?」
「…それは、」
そう、遠くない過去。
重大な裏切り行為の果てに待っていたのは、彼の「信じている」という言葉だった。
「…でも、どうして信じられるの…?アタシ、騙してたのに…。」
「…失くしたくない、居場所だから。」
己の手を引いている手に、微かに力が込められるのを感じる。
「ぼくには記憶が無くて、…居場所も無くて。でもみんなが、くれたんだ。ぼくが、いていい場所。」
シオンの歩みが止まる。
そこで彼は初めて、振り返った。…黒に近い茶の瞳が、己を見据える。
「そこに…そこに、マオもいてくれなきゃ…いやだよ。」
「…シオン、くん…。」
余程恥ずかしかったのだろうか。
またすぐに、前を向いてしまったけれど。
「シオン、アンタ耳真っ赤〜!」
「……うるさいなぁ…。」
真っ赤な彼の耳と、手を引く温もり。
―――アタシはもう、一人じゃないんだ。
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あとがき。
アニメに触発されて、シオマオ祭り第1弾。
サブイベント「迷い猫の狂詩曲」の帰り道を妄想。
うちのシオマオにしてはかなりシオンくん、頑張ったと思います。
うん、これなら胸を張ってシオマオと言える!(笑)
ラストのシオンくんの一世一代の告白がお気にだったり。
書いててこっ恥ずかしかったけど(笑)
(2007.06.12)