分かってる、元々自分のものでは無いものだということぐらい。
でもこの一言を、言わずにはいられないの。
「…返して。」




ただならぬ様子で戻ってきたエルウィンが、ようやく経緯を話し始めて。
普段の彼女からは想像もつかないような、とつとつとした話口。
もどかしい思いを抱きつつも、しかし口を挟むことはせず…そしてようやく、結末が語られた時。
…誰もが、絶望を、感じずにはいられなかった。

「…何てこった…。」
苦々しい表情で、ヴォルグが呟く。
いつもつとめて冷静なピオス医師やブランネージュですら、動揺を隠しきれていない。

それはそうだ、ヴァイスリッターにとって『彼』は、今やなくてはならない存在だった。
一度剣を振るえば血の雨、また魔術に関しても、天の轟きを自在に操る恐るべき使い手。
正に伝説そのままの、指輪の戦士…その片割れ。
戦力としてだけではない、儚い容姿を裏切らないその、優しすぎる性格、反して内に秘めた強さ。
皆にとって『彼』は、指輪の戦士である以上に大切な仲間だ。


「では、アイツはどうなる。」
「おそらく仮面は彼を手駒として使う気なのでしょう…ガラハッド王子の、代わりとして。」
ピオス医師の冷静な…これ以上ないくらい核心をついたその答えに、銀髪の兄妹の肩がびくりと揺れた。
力に焦がれた少年王子の哀れな結末。さして遠くない過去を思い出し、陰鬱な空気が辺りを包んだ。



「返して。」
沈黙を打ち破ったのは、今まで一言も発しなかったマオのものだった。
ふらりと、重さを感じさせない所作で椅子に座るエルウィンに近寄り、また一言。
「…返してよ。」
エルウィンの襟首を掴み、ゆさぶり始めるマオにヴォルグやピオス医師の制止が入るものの、
「黙ってて!」
その剣幕に、常日頃マオの態度を諌めているヴォルグですら黙り込む。
マオの追及にされるがままのエルウィンの身体が、椅子から崩れるようにして床に倒れこむ。
受身も取れず背中から落ち、派手な音を立てたがそれでもマオは叫び続ける。


「返してよぉっ!シオンくんを返してえぇっ!!」


マオの悲痛な絶叫に、エルウィンの唇が震えながら言葉を紡ぐ。
「ごめんなさい。」
「ごめんじゃないわよっ!アンタ、自分が何したか分かってんの!?」
「…ごめんなさい…。」
「シオンくん、ずっと苦しんでたのに!戦うことにも、記憶のことでも!それでも…それでもずっと戦ってきたのよ!?」
「ごめんなさい…っ!」
「誰のためだと思ってるの?アンタのためでしょ!?なのに何でそのアンタが、シオンくんを拒むの!?」
その言葉に、エルウィンの瞳が見開かれる。
澄んだ青い瞳があまりにも綺麗で、殺してやりたいとマオはぼんやり思った。


何で、彼女だったのだろう。
何で、私じゃ駄目だったんだろう。

こんなに…こんなに、好きなのに。




分かってる、元々自分のものでは無いものだということぐらい。
でもこの一言を、言わずにはいられないの。
「…っ、返してよぉ…っ!!」
エルウィンの胸に顔をうずめたまま泣き出したマオに、言葉をかける者はなく。
少女のすすり泣きとともに、シルディアの夜は更けていく。





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あとがき。
はい、そんなこんなで初ティアーズ小説でした。しかもいきなり小説版設定です。
だって小説版のが好きなんだもんよ。加納氏は神だと思うよ。よくあの説明不足なストーリーからここまで仕上げたなと…!
ぼろくそ言ってますが、ティアーズ大好きですよ…?





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