「…どこで、手を離しちゃったのかな…。」
呆然と両手を見つめながら、彼女は呟いた。





じい、とゼクティは彼女の頭を見つめる。
そこにはぴこぴこと動く、何とも可愛らしい猫の耳があった。
視線に気付いたのだろうか、「そんなに気になる?」と彼女…マオが問うてきた。
気恥ずかしそうな様子に謝罪の言葉を返すと、
「いいよ。…慣れてるしね。」
と、さっぱりした返答。
「ゼクティはビースト・クォーターって見たことない?」
「ビースト・クォーター?」
「獣人と人間のハーフってことだよ。アタシの場合父親が獣人で、母親が…。」
そこでマオが不意に言葉を切った。
「…マオ?」
「…へ?…あ、ごめんごめん!…1年前アイツにも同じ説明したなって、ちょっと思っただけ。」
「…アイツ?」
1年前ということだから、キリヤ達ではないだろう。ヴァイスリッターの誰か?
「ヴァイスリッターの仲間にね、一人記憶喪失のヤツがいてさ。今思えば結構酷い忘れ方してたなあ…。」
そう語るマオの表情は、どこか楽しそうで。
いつも見せる団長の顔とはまた違う彼女の一面。…否、これが本当の彼女?
「自分の名前しかね、覚えてなかったの。家族も故郷も自分のことも全部全部真っ白!」
そこまで凄い勢いで言ってから、一転してぽつりと淋しそうな声で、マオは続けた。

「シルディアのことなんて勿論なーんにも知らなかったから…だから、好きになれたのかもしれない。」

この「好き」は仲間とか家族とかじゃなくて「恋」としての「好き」なんだろうなと、ゼクティは考える。
ほんの少しだけれど、自分にも分かる。…キリヤが与えてくれた感情。

「手を繋いで、よく2人で買出し行ったっけ。アタシが無理矢理引っ張りまわすからシオンくん、いつも困った顔して…。」
ゼクティに聞かせるのではない、独り言のような思い出。
「でも…でも、ふとした瞬間に見せる笑顔が……大好き、だったの。」
大好き…「だった」。過去形なのか。じゃあ今は?その「シオン」って子は…?
疑問は尽きないが、彼女にそれを問うのは憚られた。最後の一言は、涙声だったから。

「…どこで、手を離しちゃったのかな…。」
呆然と両手を見つめながら、彼女は呟いた。


悲しい声に居た堪れなくなって、ゼクティはマオの手を握り締めた。
「大丈夫。私も一度、手を離してしまったけど、今はまた、手を繋いでくれる人が、いるから。」
上手く言えない。人を励ますのなんて、そういえば初めて。
けど正解なんて分からない。心のままに、ゼクティは続ける。
「だから、マオも大丈夫。求めることを諦めなければ、きっと。」
「…そう、だよね。…一度くらいで諦めるなんて、アタシらしくないよね!」
明るさを取り戻した声に、ゼクティの顔に自然と笑みが浮かぶ。良かった。

「励まされついでにゼクティ、伝言お願いしても、いいかなあ?」
励まされついで…という表現がよく分からなかったけれど、とりあえず頷いておく。
「ありがと!…ゼロ…って分かる?キミのとこに最後に転がり込んだヤツ。」
「…ゼロに?…シオンにじゃ、ないの?」
その問いにマオはあはは、と楽しそうに笑って。
「ゼロにさ、『シオン』って呼びかけてごらん。…きっと間の抜けた顔が見れるから!」
まだいまいち意味が分からない。…まあいいか。帰ったら、試してみよう。



「キミのこと、諦めないから、って。混沌とか調律者とか、そんなのでアタシを邪魔しようったって無理だからね、って。」





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あとがき。

片思い第3弾にして完結。マオさんとゼクティでした。
今考えるとエルとゼクティ、マオさんとシーナたんでも良かったかも…まあいいか。
マオさんの耳に興味を示すゼクティが書きたかっただけ。(台無し)

(2007.08.17)





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