「…シオンはね、あの子のことが好きだったの。」
綺麗な銀髪が日に反射して、輝いた。





白き騎士の名を持つ伝説の騎士団、ヴァイスリッター。
その中でルミナスナイツと一番初めに出会ったのが、彼女だった。


「こんにちは、ブランネージュさん。」
「…ああ、クレハか。…作戦の打ち合わせ?」
「ええ、今ホウメイさんとマオさんがお話し合いしてます。
 私は、久しぶりに光風館が見たくて、ついてきただけなんですけど。」
「そう。…丁度いいわ。お茶でも飲もうと思っていたところなの。…少し付き合ってくれる?」
「よろこんで。」

白い上品なカップに、紅茶のような茶が注がれていく。
「彼は役に立ってる?」
カップに注ぐ視線はそのままに、ブランネージュが問うた。
「彼…ゼロさんのことですか?」
「雑用でも何でも、こき使ってやって。…どうぞ。」
湯気を立てるカップが、目の前の机に置かれた。
一口飲んでおいしい、と笑うと、彼女も良かった、と嬉しそうに微笑んだ。


「…ねえクレハ。ゼロの本当の名前は知っている?」
唐突にブランネージュが話題をふった。
戸惑いつつも、否と返す。
「いいえ。…ゼロって、本名じゃないんですか?」
「本当はゼロなんて、悲しい名前じゃない。―――シオン。…それが本当の、彼の名よ。」
「シオン…」
頭の中でその3文字を反芻する。
綺麗な名だとは思うが、どうしても違和感を拭い去ることはできなかった。
過去の彼を知っているならば、受け入れられたのだろうか。
「ふふ、納得できないって顔してる。」
「ご、ごめんなさい…。」
「いいのよ。私だってゼロって呼ぶの、未だに慣れないもの。」
ことり、と静かにカップが机に置かれた。
こういう一挙手一投足までもが、ブランネージュはとても優雅で綺麗だ。
まるで、どこかの国のお姫様みたいだとクレハは頭の片隅で思った。
「…そういうことなのよ。多分ゼロは自分でも、戸惑っていると思うの。…己の存在にね。」
「……。」
「だから…お願い。ゼロの事、ルミナスナイツの皆で支えてあげてほしいの。」
「はい。もうゼロさんだって、ルミナスナイツの一員ですから。」
笑ってそう答える一方で、疑問を抱く自分もいる。
キリヤやソウマが言うには、ゼロは昔ヴァイスリッターにいたらしい。
ならばどうしてゼロはヴァイスリッターではなく、ルミナスナイツにいるのだろう。
そんな己の疑問を見透かしたかのように、ブランネージュがぽつりと呟いた。

「…シオンはね、あの子のことが好きだったの。」
綺麗な銀髪が日に反射して、輝いた。

「ブランネージュさん…?」
眉根を寄せて、ブランネージュが笑う。
酷くきれいで、けれど悲しい笑みだった。
「何度も心を繋げて戦ったからこそ、今の彼にはきっとあの子と共にあることが耐えられない。」

回想する。1年前には確かにあったはずの、幸せそうな笑顔。
繋がれていた手に僅かな嫉妬を覚えつつも、でも応援しようと決めた。
なのに、壊れてしまった。変わってしまった。
何て、残酷な。

「…あの子…って?」
「さあ。誰かしらね。」
いたずらっぽい笑みを浮かべる彼女に、けれどどこか哀愁を感じてそれ以上の追究をやめた。
温かかったお茶は、少しだけ冷めていた。





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あとがき。

中途半端だけど終わる!そんなカンジで第二弾はブラン姉様とクレハ。
ホウメイでもいいかなとか思ったんだけど、ホウメイだとゼロさんにホウメイが嫌悪感をあらわにして、
ブラン姉様がブチ切れそうだったのでクレハにした。
次で最後です。あの子が誰か?…もうお分かりですよね?

(2007.08.09)





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