その人は、とても綺麗な人でした。





柔らかい雰囲気を纏っていながらも、瞳には凛とした強さがあった。
物腰も落ち着いていて、笑顔を絶やさない。
どうしてこの人から気弱な彼が生まれたのかと首を傾げたくなる一方で、どこかで納得している自分もいた。
…もしかしたら彼はずっと、悩んでいたのかもしれない。
英雄たる偉大な母を持ち、彼女のようになろうと、或いは越えようと足掻き苦しんだのかもしれない。
(そしておそらくそれは、実を結ばずに終わってしまったのだ。)
(…あの戦いに、巻き込まれるまでは。)

あの大戦を経て、彼は見違えるくらいに成長したと思う。第一印象が、嘘みたいに。
指輪に呑まれることなく戦い抜き、かつての英雄とも比肩しうるだけの強さを手にしたのだと。
そしてそれは同時に、彼の長年の悲願を叶えたのだと。そう思った。

「…でも、それは違ってた。」
自分で搾り出した声は、予想に反して震えてはいなかった。だってもっと恐ろしいものを知ってしまったから。
「全部が全部、あなたの掌の上だったんだわ。シオンくんがああなることだって、知ってたんでしょ?知ってて、止めなかったんでしょ?」
「…そうね。知っていた。そうなるように、望んでさえいたわ。」
淡々と紡がれた言葉に、眩暈すら覚える。
この世界は、どこまで彼に厳しいのか。まるで彼がこの世界の敵であるかのような錯覚に陥りそうになる。
「どうして?どうしてそんなことできるの?自分の子供なのに!」
「必要なことだったからよ。…残酷な女だと思う?私もそう思うわ。…私はあの子に、辛い運命を押し付けてばかり。」
指輪のこと。ゼロボロスのこと。そんな過酷な道の前に、選択肢すら彼には示されなかった。ただただ受け入れて、戦えと。
そしてそうなるように仕組んだのが、実の母親だなんて。
どうして。どうして。…どうして。彼はあとどれだけ苦しんだらいいの。どれだけ戦えば、穏やかに過ごせる日がくるの?
そんな自分の疑問を察したかのように、彼女は笑う。その表情も佇まいも、やっぱり悔しいくらいに、綺麗で。
「マオちゃん。………だからあなたが、あの子の傍にいて、力になってあげて。」
頬にいつの間にか零れていた涙をごしごしと拭いながら、頷く。
そんなこと言われなくたってそうするつもり。アタシだけは、彼の味方でいてあげなくちゃいけないのだということが、よく分かった。



でも、あなたはシオンくんの傍にいてあげないの?―――どうしてか恐ろしくて、それだけは聞けなかった。





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あとがき。

というわけでずっと書いてみたかったマオさんとゼノヴィアママンのお話。多分ウィンド後。
ママンを出そうとすると必然的に設定資料集ネタバレにも関わってくるので書きたいけどあんまり書きたくないというこのジレンマ
設定資料集はどこまでネタバレしていいんだろう…いつも迷います
そういえばあくまでマオさん視点で書いてるので、設定と一部違ってる部分があります。分かる人には分かるかと。

(2010.07.30)





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