それは繰り返す血の輪廻。





”当主として、何か望むものはございますか。”
その問いに新しき当主は、その名を、迷うことなく口にした。
「戦人さんが、欲しいです。」



けれどまさか本当に連れてくるとは思わなかったと、紗音は思う。それも誘拐なんて罪を犯してまで。
(でもそんなのは、もうどうでもいいことだわ。)
(戦人さん、戦人さん。)
(ずっとずっと、会いたかった。これからはずっとずっと、一緒です。)
彼の表情をもっと近くで見ようとベッドに乗り上げると柔らかいベッドが二人分の重みを受けて沈む。
それは嵌れば抜け出せない泥沼のように。どこまでも、どこまでも。
そっと頬に触れると小さな子供が駄々をこねるように首を振って拒絶する。その度にじゃらじゃらと鳴る鎖が少しうっとおしい。
(でもこうして縛りつけておかないと、あなたはきっと逃げ出してしまうだろうから。)

再会を、喜んでくれるはずだと思った。けれどここ、九羽鳥庵に来てから彼は否定の言葉を口にしてばかり。
『会えたのはもちろん嬉しいさ。でも、でもこれは違うだろ!?』
『お願いだからここから出してくれよ。今度ちゃんとした形で会いにくるから。俺はもう右代宮じゃないけど、なんとかして会いにくるから。』
『だから、なぁ、もうこんなことはやめよう?』
あまりにも帰してくれと煩いので拘束を増やしたのは一昨日の話。

最初は念のため、と片腕だった拘束が両腕になり。
足をばたつかせて暴れられると近づけないので足枷が増え。
キスをしようとしたら避けられたので首枷が増え。
…そして、拒絶の言葉を言えないように口枷が増えた。

(あとどれだけ縛れば、私の傍にいてくれますか?)
見上げてくる彼の目には、怯えの中にも明確な拒絶。
ニンゲンの目は、こんなにも冷たいものだったろうかと思う。思い出の中の彼はいつも暖かく私のことを見てくれていたのに。
触れた頬も、どことなく冷たかった。ああまるで。まるで、悪い魔法をかけられてしまったかのように。
(なら、)
(解いて、あげなきゃ。)

(そう、私はもう、魔女なのだから。)


ワイシャツのボタンをひとつひとつ、外していくと彼が息を呑むのが伝わってくる。
流石にベルトを抜かれると何が始まるのか悟ったのか身を懸命に捩るが全身を鎖で捕らえられていればその逃避が叶う筈もなかった。
大きな瞳に涙をめいっぱいに溜めて懇願の視線を向けてくる戦人に、魔女は殊更優しく微笑んだ。
(大丈夫、私が戦人さんの呪いを解いてあげます。)



(そしたらずっと、一緒にいましょう?)









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あとがき。

某kmkさんが拗ねてしまったのでご機嫌取りのために書いてみた。しゃのばとです。
ついったのほうで先に公開したらみんなして続きをねだってきたから宣言しておくぜ。
続きません。

(サイトアップ:2010.11.23)





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