それでも。俺は君を手に入れる。



十代に会いにいくのは、然程難しいことではなかった。覇王とて四六時中彼女にべったりくっついていられるわけもない。
細かな隙を縫うようにして、暇を見つけては彼女のところに通っていた。

…けれど、それも、もうすぐ終わる。あくまで自分は、他国の人間。いつまでもここにいられるわけもない。
そして国に戻ったならば、これまでのように簡単には逢えなくなる。
その話を十代にしたのは、滞在期間が1週間を切った頃だった。
「うー…ヨハンもうあそびにこないの?」
「もう二度と会えないってわけじゃない。けど…難しい、かな。」
そう返すと、彼女はうー、と不満そうな呟きとともに俯いてしまった。
うららかな中庭全体が翳ってしまったかのような錯覚すら覚える。
悲しそうな顔を見るのは辛いけれど、自分と会えなくなることが少なからず悲しいと思っていてくれることは、嬉しい。
「だからさ。…十代。」
こてり、と音が聞こえてきそうなくらいに可愛らしく、十代が首を傾げる。
彼女の手を取り、正面から彼女の目を見つめる。初対面でそうしたように。
「だから十代。俺と結婚して欲しいんだ。…もちろん、今すぐでなくったって構わない。でも、俺は君とずっと一緒にいたい。
 一緒にこれからを、歩いていきたいんだ。俺の国へ…城へおいでよ。ずっと俺が。ずっとずっと、守ってあげる、遊んであげるから。」
「う?ヨハンとずっといっしょ?」
言葉を咀嚼しようとする彼女に、頷くことで肯定を返す。けれど彼女は…緩く首を振った。―――否定。
「十代、」
「おれはきたないから、おへやからでちゃいけないの。かあさまがゆったんだよ。だからおれは、ヨハンのところへはいけないんだよ。」
とても。とても穏やかな、笑みだった。陽だまりのように綺麗で、暖かい。紡がれた言葉は完全な自己否定であるにもかかわらず、
彼女は。それは綺麗に微笑んで、そう言った。

そうして、俺の心の中にあった最後の枷が外れたのも…この時だったのかもしれない。



一度だけ、後ろを振り返る。聳え立つ、白亜の城。その城は否応にも、彼女を思い出させた。
あの日以来。彼女には会っていない。彼女に許された行動範囲は部屋と中庭だけだから、当然見送りにも来なかった。
けれど今は。それでも構わない。決めたのだから。…手に入れると。

「待ってて。…必ず迎えにくるよ、十代。」





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あとがき。

白痴も久々だよなと思って調べてみたら最終アップが08年11月だったという…約9ヶ月に渡る放置プレイ!
うぉぉおおおお俺は照り焼きになってしまえばいい!
そうしてやんわりと病んでくるヨハン。こっから転げ落ちるように病みます。やっぱり俺は照り焼きになればい以下略

(2009.08.27)





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