偏愛10のお題

7つ目/他にはなにもいらないのに





その手を掴んであげるだけでいい。
それだけできっと、きっと彼は救われる。



彼の…ファントムの、アルヴィスへの執着は、ウォーゲームに敗北した辺りから一段と酷くなっているように思えた。
以前の彼は何と言おうか。ただ堕ちてくるのを待っているだけ、のように見えたのだけれど。
今の彼はもう、形振り構わずアルヴィスを自分の元に繋ぎとめようとしている。
身体を苛む激痛に、いつ自我を失うともしれぬ恐怖に、永遠を死にながら生きねばならぬ未来に。
アルヴィスはもがき苦しみながらも、決して折れることだけはなかった。
(その強さこそが、彼を惹きつけるのだというのに。)

だがアルヴィスは、気付いているのだろうか。
…彼だって、満たされぬ心を抱えてもがき苦しんでいることに。


城に侵入したギンタたちをアルヴィス自身の手で撃退してから(させてから、のほうが正しい表現だろうか?)、
彼の意識は夢うつつをずっと彷徨っていた。
時折覚醒しては、絡め取られて、また堕ちる。…その、繰り返し。
先程もまたそれを繰り返し、今は静かに眠る彼。氷のように冷たい色をした髪に、白磁のような肌。
僅かに上下する胸さえなければ、人形とも死体ともとれるような。
なまじ容姿が整っている彼だけに、ぞっとするような光景だった。

そっと、頬に手を添えると、微かに温かみが伝わってくる。嗚呼、まだ彼は、生きている。
早くタトゥに支配されてしまえばいいのに、と思う反面それを望まぬ己もいる。
―――分かっている。これは、嫉妬だ。
己よりも早く彼の同胞となる彼への。ファントムの愛を一身に受ける彼への。その癖、ファントムを拒み続ける彼への。
感情が溢れかえって、ごちゃごちゃにかき混ぜられて、酷い気分だ。
…でも、これだけははっきりと分かる。
たった一人。それさえあれば己も、彼も、



他にはなにもいらないのに!
(なんて惨い、一方通行!)





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あとがき。

あれっ もしかしなくてもロラン 初書き…?(一言も喋ってないけどな!)
何か喋らせてあげればよかった…ごめんねロラン…。
ロランの愛憎入り混じった感が好きです…あんな可愛い顔して腹ん中ドッロドロとか凄い萌える。
うん分かってる。
ごめんねロラン。

(2009.03.21)





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