偏愛10のお題

6つ目/いつまで囚われたままなのか





6年。縛られ続けた彼は、未だ鳥籠の扉が開いたことに気付かない。



「何しとるん?」
「!…ナナシか。…いや。なんでもないよ。」
気配に敏い彼が、声をかけられるまで気付かないなんて。彼らしくもない。
視線を落とすと、片方の袖がまくってあるのが目に入って…ああ、そうかと得心した。
「まだ、忘れられないん?」
「何だその、死んだ恋人みたいな言い方。」
彼は不服そうだけれど、あながち間違った例えではないだろう。尤も、恋人なんて生易しいものではなかったが。
奴の本当の望みは奴本人にしか分からないが、少なくとも自分から見たら、完全なる支配を望んでいるように見えた。
身体も、心も。圧倒的な力でもって彼の全てを己に繋ぎとめようとしているふうに、そう見えた。

「でも、忘れられないっていうのは…当たってるんだと、思う。」
翳りを帯びたサファイアが、白い腕を見つめる。つい先日までは禍々しい紋様が描かれていた、そこを。
「世界を守りたいって。それは俺の、一番の願いだ。…けど、やっぱり一番原動力になっていたのは…
 ファントムへの憎しみだと、思うんだ。」
「…アルちゃん。」
「何でだろうな。望んだ世界が確かにここにある筈なのに。心は道標を見失ったかのように、空っぽ、なんだ。」
奴の…ファントムの望みは、これ以上ないくらいに、叶っているのかもしれない。
目に見えないだけで、あの刻印は今も彼に刻まれているのだろう。身体だけでなく、きっと心にも。
枝葉を伸ばし、絡みつき、そして最後には…?嫌な予感にナナシは頭を振った。
「そんな焦ること、ないんとちゃう?もうアルちゃんには、タイムリミットなんてないんやから。」
ゆっくり、探していけばいい。新たな道標を。叶うならば彼の進む傍らに、自分がいるといいのだけれど。
「アルちゃんならきっと、みつけられるよ。ワイが保障したる。」
「…ありがとう、ナナシ。」
未だ陰の取れない微笑みに、ナナシは思う。



いつまで囚われたままなのか
(君を縛るものは、もうなにもありはしないというのに。)





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あとがき。

大 阪 弁 … !! (ギリッ)(もはや恒例行事)
大丈夫でしょうか…。ナナシの台詞で違和感あったら教えてください…それに限らずその他の箇所でも…。
ファントムがいなくなっても縛られてるアルちゃん萌え…。
もうタトゥないのに腕見つめて考え事してるアルちゃんかわいいって、そう思ったんだ…(吊って来い)

(2009.01.18)





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