偏愛10のお題

3つ目/唇開いて名前を呼んで





「シオンくん!」
キミを呼ぶのに、それ以外の名前が必要?
ねぇ、そうでしょ?それが、キミの名前でしょ?



ゆっくりと、振り向いた彼。けれどその瞳に宿る光は限りなく冷たいものだった。
「…誰のことを、呼んでいるの?」
ぽつりと落とされた応えは、紛れもなく彼の声で。
そうよ。間違えるはずないもの。アタシがシオンくんのこと、間違えるはずないもの。
そう思っているはずなのに。何でこんなに心が震えるのだろう。
「キミを。シオンくんを。」
「ぼくは、シオンじゃない。」
ゆるゆると首を振って、彼は否定する。けれど、じゃあ、なんだっていうの。
シオンくんの顔で、シオンくんの声で、今目の前にいるキミがシオンくんでないならいったい誰だっていうの!?
「違う!キミはシオンくんだよ!アタシには分かるもの、ううんアタシだけじゃないきっとみんなそう言う!
 キミはシオンくんだよ!」
ざあ、と風が吹いて、色が変わった彼の髪を玩んでゆく。
彼は元々茶髪だったはず。冷めた光の薄蒼の瞳も、元々は黒に近い茶色だったはず。
そしてなにより、決定的な差異は。
「なら。…きみの知ってるシオンには…こんな翼、あったかい?」
そう何より決定的な差異はその背の翼。白と黒の、大きな翼。
「それは…っ、」
「そう。無いはずだ。双竜の指輪の力を扱えるとはいえ、”彼”は人間なんだから。」
だから自分はシオンではないと言外に滲ませる彼に、理知的に反論する術を封じられる。
でも。でも、己の心が叫ぶ。彼こそが求める人であると激しく叫ぶ。
「…違う。…キミは、シオンくんだよ。アタシ、分かるもん。何度も何度も心を繋げて戦ったから。だから、分かるもん。
 キミが。…キミが、シオンくんだって、分かるもん!」
慟哭にも似た叫びに、彼の瞳が僅かに見開かれる。―――そこにあった光は、焦がれた光そのままで。
確信する。まだ間に合う。まだ、取り戻せる。

一歩、踏み出せば戸惑うような、恐れるような表情。
「今度こそ、間違わないから。やっぱりキミのことが、ダイスキだから。…何度だって、キミを呼ぶから。
 だから…、」



唇開いて名前を呼んで!
(あの頃には戻れないけど、せめてあの頃のように。)





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あとがき。

シオマオ書くの久しぶりすぎてなんか色々忘れてる希ガス。いやゼロマオだが。
もう一回。もう一回だけでもいいから、マオさんに「シオンくん」と呼んでほしいのです。
そして叶うならば微笑んで「マオ」と、返してあげてほしいのです。

(2009.01.10)





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