貴方に願う10のお題
5つ目/夢を聴かせて
その夢が、現実になる日が来なければいい。
不安に満ちた、アタシの願い。
「夢を、見たんだ。」
影を含んだ彼の声音。獣魔王を倒して、ヴァレリアにかかる闇は払われたばかりだというのに。
ずっと頑張ってきたんだから、楽しい夢を見ればいいのに。
「どんな夢?」
問いかけると、今度ははっきりと彼の顔が曇った。
「…両手にね。指輪が、嵌ってたんだ。」
指輪。彼の言う指輪とは、一般に言う装飾品の類ではない。
彼の運命を縛るもの。混沌の欠片。蛇の戒め。…双竜の指輪。
対の指輪は、二人の騎士に絶大な力を齎すが、一人で二つの指輪を嵌めると命が無くなると伝えられている。
「血塗れ、だった。指輪も、ぼくの手も。」
双竜の指輪の伝説の最後は、いつも一緒。指輪の誘惑に負けた騎士の片割れがもう一人を殺し、指輪を二つとも嵌めてしまう。
指輪の力に耐え切れなくなった騎士の身体は、砂となって崩れ去る。
けれど、彼は指輪に勝った。この大戦を、力に呑まれることなく戦い抜いた。
…なのに、何故、今。そんな夢を見なければならない。もう、解放されていい筈だろう。
「雨音と、鳥が羽ばたくおとが、聞こえて。だんだん、黒と白の羽根に埋め尽くされて…!」
「っ、シオンくん!」
震えだした彼の身体を、たまらず抱き締める。背筋を駆け抜ける、嫌な予感。
嫌。嫌だ。離したくない。離れたくない。漸く手に入れた、居場所なのに!
得体の知れない力なぞに、彼を持っていかれてたまるか!!
「大丈夫だよ。…大丈夫、だから…!」
「マ、オ…。」
抱き締める腕に、力を込めて。自分に言い聞かせるように。
「離さない、から。…絶対に。」
背中に、腕が回される感触。
このぬくもりが、永久に傍にあればいい。
夢の欠片は、喪失へのカウントダウン。
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あとがき。
ゲームクリア後〜ゼロ化までの間の妄想。
シオンくん、ゼロになることを何となくでも予感してたんじゃないかなぁって思って。
まぁでも予感してたら旅には出ないか。でも何かしら危機感があったからこそ、指輪の力を支配しようという決意に至ったわけだろうし。
深く考えない。所詮妄想。
(2008.05.04)