貴方に願う10のお題

1つ目/笑顔を見せて





ねえ、笑ってほしいの。

ぽつりと落とした、アタシの願い。



人差し指に指輪を通そうとして、マオはその手を止めた。
「…マオ?」
「ひとつ…お願いが、あるんだけどさ。」
耳をぴこぴこさせながら覗き込んでくるマオに、シオンは知らず半歩後ずさる。
「これから獣魔王と戦いに行くって時に…場違いかもしれないかなあとは、思うん、だけど…。」
目を泳がせてしどろもどろに言葉を紡ぐ様は常のマオからはほど遠い。
「いいよ、何でも言ってよ。…これが本当に最後の戦いなんだし、気になることは解決しておいたほうがいいよ。」
「…じゃあ…その。…お言葉に、甘えて…その…。」


「…笑って、ほしいの…。」


「…へ?」
「だだだから!その…!…シオンくんの、笑顔が…見たい…かなあ、って…。」
2人してたっぷり固まった後、シオンはゆっくり、口を開いた。
「…不安?」
「流石に…ね。」
今までの戦いも負けの許されないものだったけれど、今回は更に世界の平穏まで託されてしまった。
その漠然とした大きさは、けれど確かな重みをもってのしかかる。
「ね、シオンくん。指輪嵌めるの、ホントにアタシでいいの?」
指輪に施された竜の装飾を撫ぜながら、小声でマオが問う。
「長丁場になるだろうから、リュウナのほうが回復とか防御はいいだろうし、ブランネージュの魔法だって、
 頼りになるしさ、えっと…。」
俯いたまま喋り続けるマオ。
語尾ははっきりせず、ほとんど独り言に近い。
彼女がこういう喋り方をする時は大抵後押ししてもらいたい時なのだと、シオンは知っている。
「マオがいいんだ。」
途端ばっ、と凄い勢いで顔を上げたマオに、微笑む。
できるだけいつものように笑っているつもりだけれど、笑えているだろうか?
「マオの笑顔が、指輪より何より、よっぽど力をくれるから。」
「シオン、くん…。」

「…だから、さ。…笑ってほしいな。」


その言葉にマオはいつもの満面の笑みで、応えてみせた。




―――行こう。何より君の笑顔を、守るために。





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あとがき。

2人が2人の世界を形成しすぎで書き手である自分すら置いてけぼりにされました。
(ありえねえ)
書いててこっ恥ずかしかったのと、淋しかったのと半々。
無意識に甘えるマオと、それをちゃんと分かってあげられるシオンくんが書きたかった。

(2007.06.19)





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