歪んだ愛情10のお題
5つ目/従属
『私に従うか、指輪の子よ。さすればいずれこの身体、返してやってもよいぞ。
―――大事なのだろう、母親が。』
剣を持つ手が、がたがたと震えるのを感じる。
否、震えているのは手だけではない。
全身が…それこそ、シオンという人物を構成するもの全てが震えていた。
「何言って…、」
『そのままの意味だ。…母親を返して欲しければ私に協力しろと、脅すほうが分かりやすいか?』
複数の声が重なり合うような…けれど人のそれとは違う、機械的な声音。
顔をすっぽりと覆う仮面は邪悪なるものを凝り固めて作られたような禍々しさで…
けれどその奥には確かに、自分の母親がいる。
この世界をどれだけ探してもたった一人しかいない、自分の肉親が。
何をしなければならないかは、分かっている。
剣をあの仮面に突き刺し、消滅せしめるのだ。
あの仮面はこの世界にとって害以外の何物でもない。
(分かってる、分かってる!そんな事、分かってる!!)
けれど。
けれどそうしたら、仮面の奥の肉体はどうなる?
行き着いた思考を読み取ったかのように、仮面が言葉を紡ぐ。
「シオン。」
否、仮面ではない、それは母の声であった。
優しく、時に厳しく自分を導く声。
たった3文字。けれど決定打には十分な、3文字であった。
シオンの手から、剣が零れ落ちる。
膝からも力が抜け、がくりと地に膝を付く。
いよいよ言葉を失くした彼に、今度はまた元の声で、仮面が問う。
『さあ、今一度尋ねよう。…私に従うか、指輪の子よ。』
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あとがき。
小説版仮面の「指輪の子」という呼び方が好きだ!というだけのお話。
時間軸はゲーム本編前。ゼノヴィアママが仮面に乗っ取られた時の妄想です。
このあとやっぱり反抗して崖から落ちるか、悲しそうな顔しながら必死にママの為に戦うかは皆様におまかせします(えええ)
(07.4.12)