歪んだ愛情10のお題
4つ目/それはまるで食欲に似た、
己の中のケモノの血が目覚めるのを自覚する。
欲しい、欲しい。
あなたが欲しい。
「……。」
探し人は割とすぐに見つかった。
記憶がなく、人と関わることにどこか腰が引けている節のある彼の居所を見つけるのは容易い。
シルディアを二分するように流れる河、人気のない土手に、果たして彼はいた。
「シオンくん?」
「……。」
「シオンくーん?」
「……。」
「…寝てるし…。」
すう、すうと規則正しい寝息をたてながら、彼はすっかり夢の中。
(この、人が一生懸命探してたのに〜…!)
いたずらしてやれ、と、とりあえず馬乗りになるようにして覆いかぶさってみる。
それでも未だ夢から帰ってくる気配ゼロの彼の顔をまじまじと覗き込む。
(あっ、くそ、まつげ長っ!)
見れば見るほど、かわいらしく整った顔立ち。
…鍛えられてはいるから、流石に女の子と間違えるまではいかないけれど。
最初は、頼りないな、だけだったのに。
いつからこんなに、色んな思いが湧き上がってくるようになったんだろう。
でも、それを自覚するのが少し遅すぎた。
あの子に彼が微笑みかける度、醜くなっていく自分。
いっそ、狂ってしまいたいほどの片恋。
(もう少し、早く出会えてれば…良かったのかな?)
さらりと、柔らかな茶色の髪を撫でる。
ふるりと、瞼が揺れて…起きるのかな、と思ったその瞬間。
閉じられたままの瞳から零れ落ちる、一筋の涙。
(ねえ、どんな夢、見てるの?)
(無くしちゃった思い出?戦いの夢?…それとも、あの子の夢?)
(…ねえ、そこに、私はいる?)
(私はこんなに、シオンくんが欲しいのに。)
己の中のケモノの血が目覚めるのを自覚する。
4分の1しか占めていない筈のそれがどんどん膨らんでいって、自分を支配する。
欲しい、欲しい。
あなたが欲しい。
貪欲なその感情は、まるで、食欲にも似て。
ぺろりと涙を舐め取ると、ようやっと彼は夢の中から帰ってきた。
「……っ…?」
「おはよ、シオンくん。」
「……。…ちょ、マオ!?なにして…!!?」
予想通りの反応に、頬が緩みそうになる。
無理矢理に、「いつもの自分」を引き出して。
「だぁってえ、せっかく探しにきたのに、シオンくんってばグースカ寝てるんだもん。だからイタズラ?」
「分かった、分かった、悪かったから…は、離れて!」
はいはい、と渋々身体を起こす。
そんなに必死にならなくったって…。悔しい。
「ダンチョーと先生が探してたよ。…次の作戦のことで、お話があるみたい。」
「…分かった、すぐ行くよ。」
恥ずかしいのか…ろくに目も合わせず立ち去ったシオンの後ろで、マオは剣呑な笑みを浮かべた。
…今はまだ、可愛いネコでいてあげる。
プラウザバックで戻ってください。
あとがき。
…あんまり歪んでないかも…。(メルと種の後だから余計に…。)
でもマオさんが別人ですね。お前誰だよ!(苦笑)
マオさんがゆってる「あの子」はお好きな相手を当てはめてみてください。
エルでもリュウナ様でもブラン姉様でも。
シオマオが一番好きなのに、片思いシリアスしか書いてない罠。(駄目)
(2007.02.10)