歪んだ愛情10のお題

3つ目/爪を立てて





悲鳴の代わりに、爪を立てて。
涙の代わりに、血を流して。
そんな静かな抵抗が、酷く愛おしい。



今日もレギンレイブ城の中庭では、勝利の宴会が行われていた。
メルのメンバーを囲み、酒をあおり、騒ぎ立てる。
それは勝利に酔っているようでもあり、不安を忘れ去ろうとしているようでもあった。
(くだらない。)
ファントムの紅い瞳が、僅かに細められる。
けれど、「英雄たち」の中に一人姿の見えない者がいることに気付き…
今度は深く深く、その唇を歪ませた。



「こんばんわ。」
「…!?ファン、トム…!」
『なぜここに』、と驚きに見開かれる湖水の瞳。
いや、『こんな時に』、か?
「お見舞いだよ。痛むんだろう?タトゥが。」
痛みのあまり、爪を立てたのだろう。白い服に滲む、赤黒い色。
それは彼の形のいい爪にも、こびりついていた。
「あーあ、痛そう。そんなことしないで、素直に助けを求めればいいのに。
 ギンタの持ってるホーリーの力を持つガーディアンなら、少しは痛みも引くと思うけど。」
拒絶の視線をものともせずに、彼のもとへと歩み寄る。
距離をとろうとベッドから転げ落ちるようにして後ずさり…けれど無情な壁に阻まれ、その抵抗もすぐに終わる。
「…っ、く…!」
歩を進める度、苦痛に歪む怜悧な顔。
「…捕まえた。」
彼の両脇に手をついて、それはまるで檻のようにやんわりと彼を拘束する。
魔力を練るどころか呼吸もままならないようだが、それでも自分を睨み付けてくることだけは忘れない。
「痛い?…痛いよね。ボクも痛かったもの。」
「ダンナに『殺された』時の痛みと比べても、タトゥの痛みは別格だね。思い出すと背筋が凍る。」
それは切り傷のようであり、骨折のようであり、火傷のようでもあった。
外側から、内側から、形容詞が追いついてこないくらいの痛みが体中をかけめぐる。
否、痛いという形容詞ですら、最早役不足。どんな言葉をもってしても、あの感覚を表せはしない。
「ボクなら、救ってあげられるよ?」
その、苦しみから。
「戯言を…!お前が、元凶の癖して…!!」
「タトゥは消してあげられない…あげないけど。でもこんな風に、一人で苦しませたりもしないよ?」
血が滲む腕をそっと撫ぜると、びくりと跳ねる細い身体。
「ずっと…傍にいてあげる。君が一人で傷つかないように。」
「やめろ…!」
「さあ、おいで。…ボクが君を、救ってあげる。」
「…やめて、くれ…!!」


けれどその時、部屋に控えめなノックの音が響く。
「アルヴィス〜?」
また酒を飲んだのだろうか、どことなく浮ついたギンタの声。
「なあ、ホントに大丈夫なのか、具合。明日もウォーゲームなんだし、無理しないほうが…。」
そこまで言葉を紡いで、ようやく自分の魔力に気付いたのだろうか。
ドアを蹴破る勢いで扉を開ける。
「ファントム!?」

「…残念。時間切れみたいだね。」
見せ付けるように、額に軽く口付けを落とす。
途端、ギンタの罵る声が聞こえたけれど、聞こえないふりをして。
「また来るよ。…お大事に、アルヴィス君。」


(次は、手に入れる。)
そうして、閉じ込めてしまえばいい。
彼を孤独にするような世界になぞ、もう二度と帰してやるものか。

ふと、指に血がついているのに気付く。
彼の腕を撫ぜたときについたものだろうか。
ぺろり、と舐めとりながら、正反対の色を持つ、湖水の瞳に思いを馳せた。





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あとがき。

トム様大・暴・走!(テンションがおかしい)
そんなカンジでタトゥが痛むアルちゃんと、お見舞いに来たトム様でした。(何か表現が違う気がする)
というか、自分の腕に爪を立てながら苦しむアルちゃんが書きたかっただけです。(最低だなお前!!)
どうとでも言ってください。満足です。(笑顔)

最後乱入してくるの、ギンタかナナシかで迷いましたが、ギンタを選択。
だってナナシさん、アルちゃんの部屋に入るのにノックなんかしなさそうだもん(凄い偏見)
(2007.03.23)





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