歪んだ愛情10のお題
10こ目/鎖と檻と、そして君。
第2次メルヘブン大戦。
6年を経て再び繰り返された惨劇は、けれど一人の少年の活躍により終止符が打たれたのだった。
人も街も、ゆっくりとではあるが再生への道を歩き始めていた。
…ただ一人、湖水の瞳の少年を残して。
荘厳に佇む王城レスターヴァ。
かつてはチェスの根城となっていたそこは、現在ではあるべき姿を取り戻している。
日はうっとりと微笑み、木々がささやかに揺れ、水はたおやかに流れる。
どこまでも穏やかな、晴れた午後。
優しい光が差し込む城の廊下を、金髪の彼…ナナシは少し重い足取りで、歩いていた。
静まり返った廊下に、こつり、こつりと単調な音だけが響く。
やがて、こつん…と、その音すらも消え。
優美な飾り彫りが施された扉の前で彼…ナナシは足を止めた。
きい、とかすかな軋みをたてて、扉が開かれる。
やはり中にも柔らかな光が満ちていて、そしてやはり静まり返っていた。
その静寂に溶け込むかのように、ベッドに横たわる人影。
「アルちゃん。」
部屋の無音に溶け込むようにして、消えていくその言葉。
口元に手をかざし、かすかに風を感じることでようやっと、ああ、生きているんだなと実感する。
あの日、惨劇のカルデアで突如として行方の知れなくなった彼。
気が狂わんばかりに求めた再会は、けれどとても残酷なものだった。
ギンタがファントムに勝利し、スノウ奪還のため乗り込んだここ、レスターヴァ城。
再び見えた仇敵は、最後に笑顔で言った。
「君たちのもう一人の尋ね人も、ここにいるよ。」
「っ、それって、まさか…!」
「…返してあげるよ。…最も、連れ戻せたら、の話だけど。」
そうしてようやっと見つけ出した彼は、まるで人形のように…抜け殻に、なっていた。
力なく投げ出されている彼の手を、そっと握る。
手触りの良い青の髪もサファイアの瞳も、伝わってくるほのかなぬくもりもそのままに…
ただ、心だけがいない。
「アルちゃん。…そろそろ、起きてや。」
伝わっているかどうかも怪しい。けれどナナシは語りかける。
それを止めれば彼は本当に戻って来れなくなるような、そんな予感があった。
「皆、待っとるで。アルちゃんが、帰ってくんの。」
握った手を、額に当てる。
―――こんなにも、近くにいるのに。
繋いだ彼の手に、かつての禍々しい紋様は見当たらない。
しかし、まだ彼は真の意味では繋がれたままなのだ。永遠の名を冠した、あの男の鎖に。
否、助け出してみせる。今は無理でも、いつか必ず絶対に。
奴の歪んだ愛情の檻になど、いつまでも彼を閉じ込めさせておくものか!
だからナナシは呼びかけ続ける。
戻ってきてほしい。ただその、一心で。
「…アルちゃん。」
プラウザバックで戻ってください。
あとがき。
何やらトム様が遊びすぎた模様です。
そんなカンジでやっぱり一回は書いておきたい精神崩壊ネタ。楽しかったです。(鬼だ)
このお題を見た時から、これはこのネタでいこうと決めてました。
はとさんの中では桜=キラ、羽=シオンくん、鎖=アルちゃん、というイメージなのです。
(最後の人だけなんか違うよ)
これにて、10のお題もコンプです。
最後までお付き合いくださいって、ありがとうございました〜!
(2007.5.26)