終焉すら、己の思い通りにならない。
けれどこのまま、思い通りにさせてたまるか。
「…全く。最近はおとなしくしてくれてるから、ようやく諦めたんだと思ったのに。」
意識の端で、彼の言葉を聞く。
けれど、ただ聞くだけ。揶揄するような台詞にも、アルヴィスの心は動かない。
「小鳥はおとなしく、鳥籠の中にいればいいんだよ。」
最近は、もう正気でいられる時間のほうが少なくなってしまった。
もうこのまま、自分でなくなってしまうのではないか。
意識を侵食される度にそう思う。
…このまま、このまま奴の望む結末など、迎えさせてたまるか。
さらり、さらり。
指の間から零れていくすべらかな髪に、ファントムは満足そうに笑みを浮かべた。
正直、部屋を抜け出してウォーゲームに出るとは思ってもみなかった。
タトゥの影響下にあるときは、こんなに素直なのにね。
ぽつりと呟く。
ここまで堕ちているというのに、それでもまだ抵抗を見せるというのか。
籠から出ようと羽ばたくだけ無駄。かえって羽根を傷つけるだけだ。
―――否、利口な彼は分かっているだろう、そんなことは。
「でも君は…それでも帰りたいの?あんな醜い世界に。」
静かに落とした問いに彼が答えることは、やはりなかった。
脳裏にぼんやりと浮かぶのは、茶がかった金の髪。
今ウォーゲームに出ている人間に、クロスガード所属の者はアランさんしかいない。
ならきっとあの彼は手加減などせずに戦ってくれるだろう。…先の戦いの、ように。
自分には実戦の経験なんて無いに等しいから、きっと彼にとっても有利な筈だ。
『頼む、俺を、殺してくれ。』
砂埃に紛れてしまったあの言葉は、ちゃんと彼に届いただろうか。
…彼なら、終わらせてくれるだろうか?
ああそういえば、彼の名前は何といっただろう。
ポズンは何て、コールしていたっけ。
考えようとする傍から散らばっていく思考を必死にかき集めても、結局零れていく。
(自分を殺す相手の名前くらい、知っておきたいんだけど、な。)
けれどいよいよ頭が働かなくなって、アルヴィスは思考を諦めた。
暗くて、深い所に落ちてゆく感覚。
何度も味わったけれど、この瞬間だけは決して慣れることはない。
(…また、起きられるかな。)
ゆっくりと、瞼を下ろす。
名前が分からなくても、あの髪の色だけは覚えていたい。
黒に塗りつぶされていく思考と視界の中、そんなことを思った。
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あとがき。
おまたせしました〜!小鳥さん第5弾です!(でも何だかんだいって、5作目まできたんだ…。)
今回時間軸は1作目「小鳥さんの頼みごと」後です。
ナナ←アル←ファンの片思い大会(笑)
けどきっとアルちゃんは自覚無し(笑)
はとさんの文章の癖の一つとして「途中でころころ視点が変わる」ということが挙げられると思うんですが、
今回もその癖がでてしまっております…。
しょ、精進します…。
(07.08.21)