「俺はいつか、お前を傷つけてしまうかもしれないから。」
勇気を振り絞って告げた思いは、そう彼に拒絶された。
「ふふ、良く出来ました。」
血塗れの凶器を持ったまま立ち尽くす彼を、ファントムが後ろから抱きしめる。
やめろ、やめろ、彼に触るな!!
そう叫びたいのに、口からは言葉にならない呻きしかでてこない。
「ぐっ、」
「いい恰好だね、ギンタ。」
「テメェ…ファントム…!!」
腹立たしいほどに穏やかな、その微笑み。
「憎む対象が違うんじゃないのかな。君や君の仲間をそんなにしたのは、アルヴィス君だよ?」
違う、彼がこんなこと、自分の意志でする筈ない。
「お前が、操ってるんだろ!?アルヴィスを、元に戻せッ!!」
痛みに詰まりながらも、叫ぶ。
動くたびに、落ちる血。けれど、立ち上がらなければ。
彼を…アルヴィスを、救ってやらなければ。
「たとえ自我を戻してやったところで、何になる?血だらけの君や仲間を、自分の手にある凶器を見て。
…壊れちゃうよ?」
あんなに嫌っていたファントムの腕の中、人形のように、身じろぎすらしない彼。
最初は嫌な奴の筈だった。
けれど彼の過去を、覚悟を知って…助けてやろうと、共に戦ってやろうと、…そう心に誓った筈なのに。
「それにどのみちもう遅い。タトゥは完成したのだからね。」
その一言が傷より何より一番痛い。
呪いを解いてやることもできず、ファントムを殺すことも出来ない。
大切な人のために、俺は何もしてやれなかった。
でも…でも。
「でも…!それでもアルヴィスは、俺の仲間だ!!」
「諦めが悪いね。…君がこの世界に来るずっと前から、彼は僕のものなのに。」
そんなこと、知るか!
俺は…俺は!
「なあ、アルヴィス。」
「無駄だよ。今の彼に君の声なんて届きはしない。」
「…大丈夫だから。戻ってこいよ。何があったってお前は、俺達の仲間なんだから。」
どこを見ているのかわからない瞳に、必死に呼びかける。
お前の瞳はそんな、ガラス玉みたいなものじゃないだろ、アルヴィス。
「大丈夫。一緒に戦ってやるから…戻ってこい、アルヴィス!!」
ひくり、と動く指先。
「…ギン、タ…?」
膝から崩れそうになる彼の身体を、ファントムがしっかりと抱きとめる。
その顔から笑みが消え、一言呆然と呟く。
「…馬鹿な、」
「っ、アルヴィス!!」
彼の手からロッドが零れ落ち、それは地面に当たる直前で光となって元の形へと戻る。
苦しげに肩で息をしながら、それでも彼は言葉を紡ぐ。
「ギンタ……すまない…俺、は…、」
「謝ってんじゃねぇ!お前が思ってるほど、俺はヤワじゃねぇぞ!こんぐらい、なんともねぇって!!」
「ギン…っ、!!」
アルヴィスの言葉が不自然に途切れたのは、それまで後ろから抱きしめていたファントムが、
唐突に彼を自分のほうへ突き飛ばしてきたからだった。
「アルヴィス!」
手を伸ばして、彼を受け止める。
そしてファントムを見やると、彼はまたいつもの、”何も笑っていない”微笑を浮かべていた。
「少しの間だけ、貸してあげる。越えられるものなら越えてみなよ。…永遠という、途方も無く高い壁を…ね。」
その言葉を残し、ファントムはアンダータを発動させ、目の前から消えた。
「すまない…ギンタ。」
「だぁから、謝ってんじゃねぇっつの!」
「…ギンタの声が、聞こえたんだ。…だから、こっちに戻ってこれた。」
「アルヴィス、」
「……ありがとう、…ギンタ。」
返事の代わりに、黒曜石の色をした髪を、幼子にするように優しく撫ぜる。
固く、滑らかで、けれどどこか、温かいような気がした。
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あとがき。
お題のあとがきで書いた、例のギンアルバージョンです。
読みたいというお声を頂いたので、アップしてみました。日の目を見られて良かったね、ギンタ。
ただ、そのままだとちょっとギンアル色が薄い気がしたので、ちょっと手直し。ギンタ視点に変えてみたりしてます。
先にファンアルバージョン(お題)を読んで頂くと、どこではとさんが詰まったか一目瞭然かと(笑)
「あ、ここからファンアルにするかギンアルにするか迷ったんだな…」とニヤニヤしてやってください。
ただ、正解しても何もでません。(オイ)
アニメル89話の、あのギンタの台詞にどうしても勝てなくて自己嫌悪に陥りかけました。
無理だ…あの台詞は超えられねぇ。
ギンタ初書きでしたが、割と書きやすかったです。
ナナシより書きやすい。奴は…関西弁が…ね。
…うん、一番書きやすいのは、トム様の鬼畜言葉攻めだけど(この女救えねぇ)