絶望だらけの日々のなか。
それでもあの暖かい場所に帰ることを諦めたことは、なかった。




日が沈む。
ゆっくりゆっくり地平線と溶け合う太陽を、アルヴィスは城のテラスからぼんやり見つめていた。

(けれど、またすぐ日が昇る。)
(…でも、朝が来たら、最後の戦いが始まる。)
(ダンナさん、)

何度呼んだかしれない名前。その5文字に何度勇気を貰ったことだろう。
『俺にはなぁ、おめーと同じくらいの年のガキがいるんだよ。』
『いつか会うことがあったら、仲良くしてやってくれよ!』
彼を安心して家族の元に戻すためにも、この呪いに、あの男に勝たなければ。
この暗い場所で、ほとんどそれだけがアルヴィスの支えだった。


一筋の光を残して、太陽が空から消える。
まるでそれを待っていたかのように、かけられた声。
「こんなところにいたのかい、アルヴィス君。」
…振り向かなくとも分かる。背の向こうで奴は、きっといつもの嫌な笑みを浮かべている。
「ロランが泣きながら探していたよ。全く、かわいそうに。」
「………。」
ファントムが、振り向きもせず無言のアルヴィスに近寄り、小さな顎を掴み取る。
ぐい、と乱暴に自分のほうを向かせる。
「人と話す時は目を見なさいって、教えなかったっけ?」
「…お前と話すことなんて、何もない。」
刃を喉元に突きつけられるよりももっともっと鋭利な殺意。
そんな小さな二つの瞳で、どうしてそこまでの激情を封じておけるのだろう。
(まったく君は、楽しませてくれるよね。)

爪が食い込むほどに掴んでいた顎を開放してやる。
痛がるそぶりも見せずにただひたすら睨み付けてくる彼には全く感服する。
けれど彼にとって、その強さは諸刃の刃。時に彼を傷つける。

―――そう、その強さ故に、君は僕に縛りつけられるんだ。


「いよいよ明日で最後だね、ウォーゲーム。」
「………。」
「負ける気はしないけど、きっと楽しい戦いになるよ。ダンナの成長には、驚かされてばかりだから。」
「ダンナさんは、お前なんかに負けない。」
きっぱりと、言い切ってみせる。あぁ本当に、どうしてそうも強くあれるのか。
「君のこともあるし、死に物狂いでかかってくるだろうね。楽しみで仕様が無いよ。」

(彼が死んだら、君はどんな顔をするのかな。)
想像しただけで凶悪な笑みが浮かぶのを抑えられない。
…教えてあげる、君にはもう、希望なんてもの、残されていないってことを。


(ダンナさん。)
名前を呼ぶ。呼ぶと彼は振り向いて、笑顔を向けてくれる。
(…大丈夫。ダンナさんが、負ける筈ない。)
勝負におけるもう一つの可能性を無理矢理頭から追い出して、目の前の敵を睨む。
その瞳こそがファントムを惹きつけるのだと、気付かないままに。



空には、一番星が輝き始める。
けれどこちらの星のきらめきのほうが、ファントムにとっては美しい。

返すものか、あんな汚い世界になど。
それよりももっと綺麗な世界を、君にあげる。明日はその世界の記念すべき幕開け。
…だから。

「いい子で待っていてね、アルヴィス君。」





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あとがき。

小鳥さんシリーズ、第3弾です。今回はちょっと強めの子アルでお届けしました。

ロランが名前だけ登場。ロランは弟が出来たみたいで喜んでいますが、アルちゃんのほうは彼を毛嫌いしています。(報われないな…)
彼はアルちゃんが部屋を逃げ出すたびに走り回って探すハメになります。トム様に怒られるって思ってるから。
けど当のトム様はアルちゃんが逃げ出すのを楽しんでいたりします。絶対逃げ出せないって、分かってるので。
アルちゃんも逃げ出せないのは分かってるんだけど、それでも逃げずにはいられない。もしかしたらと思ってしまうのですよ。
…駄目だ、書いただけでなんか萌えてきた(滅)

子アルの顎をつかむのと、「人と話す時は目を見なさい〜」ってのが書きたかっただけの話です(最低)
トム様二人目の子育ては苦戦中です。(一人目=ロランが素直すぎた)





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