いっそ、眠り姫のようにずっと眠っていたならば。
…この現実を知ることは、なかったのだろうか。
「……っ、」
瞼がいつに無く重い、けれど起きなければいけない気がする。
焦燥にも似た感覚を覚え、アルヴィスは覚醒への道のりを選んだ。
目を無理矢理こじあけて…飛び込んできたのは、壮絶な違和感。
「…どこだ、ここ…?」
耳が痛いほどの静寂、光を許さない室内。
いつもよりふかふかのベッドで、室内の物も一目で高価なものだと分かる。
…どうしてこんな所で寝てるんだろう。頭もぼんやりする。
とりあえず周囲の状況を把握しようと上半身を起こしたところでぐらりと、強烈な眩暈。
回る世界に抵抗できず、崩れるようにしてベッドから落ちた。
「いっ…!!」
痛みと眩暈に息が詰まる。泣きたくなるのを、ぐっと奥歯をかみ締めやり過ごす。
それでもなんとか起き上がろうとすると、視線の先で扉が開かれるのが見えた。
「あれ。もう起きていたの?」
その姿を、声を認識した瞬間、蘇る記憶。
『いい目をしている。』
『君は僕と同類になる。』
『アルヴィスは、ウォーゲームに関係ねぇ!』
『君らには勿体無いよ、この子は。』
『やめろ、アルヴィスを何処に連れていくつもりだ!』
『トモダチになろうよ、アルヴィス君。』
「ファン、トム…!!」
憎悪の限りを込めてその名を呟く。大好きな世界を、大切な仲間を悉く壊し、奪っていくその敵の名を。
「気分はどうだい?タトゥを入れたばかりだからね、無理しちゃ駄目だよ?」
ふわりと微笑まれ、抱き上げられる。ベッドへ甲斐甲斐しく戻す仕草は限りなく優しい。
けれど彼はその微笑のまま、物を壊せる。人も殺してしまえる。
「何で…」
「ん?」
「何で、殺さなかった!?…何が目的だ!」
疑問をぶつけると、また一つ笑み。
「言ったでしょう?トモダチになろうって。」
「ふざけるな!」
叫ぶ自分の声すら頭に響いてうるさい。横になっていてもぐらぐらする感覚は収まりそうにない。
なのに目の前の相手は、変わらず穏やかに微笑んだままで。
「ふざけてなんてないよ。君が綺麗だから気に入った、だから連れてきた。…何がいけないの?」
当然のようにそうのたまう彼に湧くのは怒りだけ。
何故自分には力がないのだろう!こんなに近くにいるのに、何故殺せない!!
怒りだけで人が殺せるなら、何回でも殺してやる自信があるのに!
「衣食住の心配はしなくていいよ。全部面倒見てあげるし、欲しいものは何だって揃えてあげる。」
「いらない、皆の所に帰せ、」
「戦い方も教えてあげるし、ARMだってあげる。…君にはどんなARMが似合うかな。今度見繕ってきてあげるね。」
「…帰して、」
成立しない会話。止まらない眩暈、際限なく湧き出る殺意。
回る感覚に、とめどない感情に、壊れてしまいそう。
「君はもうどこへも行けないよ。…このタトゥからは逃れられない。」
言って、額にキスを落とされる。
ひやりとした感触に、総毛立つ。―――死人の、温度だった。
いずれ自分もこんな温度になるのか、こんな微笑を浮かべたまま、人を殺すようになるのか。
(そんなのって、ない。)
絶望と体力の限界とで、また意識が遠くなる。
白く染まりゆく世界で、アルヴィスが最後に聞いたのは、
「ねぇ、トモダチになろうよ…アルヴィス君?」
永遠を生きる屍の、至極楽しそうな声だった。
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あとがき。
そんなこんなで過去編です。もうトム様が止まりません。誰か何とかしてください(無理)
全力をもって額キッスだけに留めましたが・・・。
こんな好き放題暴走するキャラ他に知りません。敵うとしたらオリジ小説の方のヴァルツェくらいなものです。
92話予告のお陰で子アルフィーバー中です。子アルは存在自体がもう一種の凶器だと思います。