籠の中の鳥は、いついつ出やる。




「こなくそっ、」
今までの奴とは格が違う。ビショップとナイトの間には、こんなにも溝があるものなのか。
ナナシはこの試合が始まってから一言も発していない相手の顔(といっても、仮面で見えやしないのだけれど)を見遣った。
(力自体は大してあるわけやない…なんとか接近戦に持ち込ましてくれへんやろか。)
しかしながらその辺りは敵も分かっているようで、中々近づく隙を与えてはもらえない。
ローブを着込みフードもすっぽり被っているから分かりづらいが、おそらく相手は自分よりも小柄。
そして距離を保ってガーディアンを乱発してくる辺り、腕力には自信が無いと見た。つまり力押しならば、自分にも勝機があるという事だ。
(それは、分かっとるんやけどねぇ…。)

そういえば、自分は相手の名前を知らない。
コールし忘れなのかは知らないが、チェスでナイトという極々当たり前の事柄しか知らされず、
また相手が一言も喋らない故に性別も年齢も見当が付けられないときた。
そこまで考えて、ナナシは自分が未知の生物か何かを敵にしているような錯覚を覚え、
相手が人間であるかを確認するために、知らず知らず口を開いていた。
「のう、そういやワレ、名前も名乗っとらんやないかい。どないな了見やのん?」
「……・…。」
意外にも、肩がぴくりと反応するのが見えた。
―――何か痛い所をついた…か?けれど何に反応した?
自分の言った台詞を頭の中で今一度反芻する。…そして、思い当たった単語。
「…名前、か?」
その単語に、また微かな動揺。―――大当たり、だ。
「ははん、その様子やと、こっち側に誰か知り合いでもおるんやろ?」
「……。」
「知られたないのか、ワレがチェスやってこと?」
その言葉を遮るかのように、敵はロッドを手に踊り懸かってきた。
今まで冷静に距離を保って戦ってきた人物とは思えないが、とにかく絶好のチャンス。
愛用の槍を手に応戦する。
上段からの攻撃に、下から掬い上げるようにして防御する。
ナナシの槍に弾き飛ばされ一旦距離を取ったが、直ぐにまた飛び掛ってきた。
横薙ぎの一振りをジャンプによって避け、落下の勢いに合わせてそのまま槍を振り下ろす!
生身の人間に切っ先が埋まっていく感触とは違う。固いものに当たる音。
槍の柄がちょうど、相手のこめかみ辺りに当たり、ガキンという鈍い音をたてて、仮面を弾き飛ばした。

「ぐっ、」
ナナシが初めて聞いた、相手の声。
…まだ若い…少年?


衝撃でフードが外れる。
露になる、敵の正体。

仮面とフードの下から現れた容姿にナナシだけでない、誰もが息を呑んだ。
髪はさながら黒曜石。白い肌に、瞳は青とも緑ともつかぬ不思議な色合い。
どのパーツをとってみても完璧。美少年という表現だけでは足りない気にすらさせる、そんな容姿がそこにはあった。

それだけに、その首筋から頬に刻まれた、赤黒い血のような紋様が、やけに不気味で。

「アル、ヴィス…?」
落とされた呟きは、控えていたアランのものだった。
常の彼らしくない慌てた呟きに、メルのメンバーがアランを見る。
「お前、アルヴィスか!?」
「………すみません……アラン、さん…!」
アルヴィスと呼ばれた少年が、搾り出すようにして言葉を紡ぐ。
―――どこか、泣きそうな目を、していた。
「あいつ、おっさんの知り合いなのか?なんでチェスにいるんだよ!?」
「…あいつはクロスガードの仲間だ。6年前、前回のウォーゲームの時に、ファントムに連れていかれちまって…」
それからずっと探していたと、ギンタの問いにアランが苦々し気に答える。
ここにはいないガイラもきっと今頃、同じような顔をしているのだろう。
何故、クロスガードのメンバーだった者がチェスで?その疑問をぶつけるために口を開こうとしたナナシだったが、
意外にもアルヴィス本人が先に、話し始めた。
「さっきのは、大分効いた。…おかげで少し、目が覚めた。」
酷く、自嘲めいた笑み。心の底から楽しそうに笑えばきっと、可愛らしいだろうに。
もったいないな、とナナシは頭の片隅でぼんやり思った。
「こんな風に正気を保っていられるのも、一日に数時間あれば良いほうだ。…俺にはもう、…時間が無い。」
見上げてくる、真摯な瞳。深い池の色に似たそれに、引きずり込まれそうな感覚すら覚える。
「…頼む、俺を、」

最後の単語に被せるかのように、その時、突如として2人の間に爆発が起きた。

「っげほ、げほっ!〜〜、なんやねんな、急に〜!」
間一髪で逃れたものの、巻き起こる土煙に盛大に咽こむ。
けれど、土煙の向こうに感じる強大な魔力に、本能的に身構える。この魔力には、覚えがある。けれど何故今、ここにいる!?
…その思考は、皆も同じだったらしい。特に「彼」に対して敵愾心を持つギンタが、真っ先に叫ぶ。
「ファントム!?」
「…やぁ。」
一陣の風が、土煙を払う。晴れた視界の先に居たのは予想通り、人当たりの良い笑みを浮かべた敵の司令塔。
アルヴィスを背後から抱きしめるようにして…彼はゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「まったく。部屋にいなさいって言ったでしょう、アルヴィス君。…どうして勝手に、試合に出てるの。」
幼子に言い聞かせるような口調。ゆったりとしたそれが逆に、恐怖を煽る。
「他人の試合邪魔した挙句にこっち無視して説教かい。えぇご身分やないかい、コラ。」
「それは済まないね。けど叱る時に叱っておかないと教育上、良くないでしょう?」
「おんどれに子育て語られるとは思ってもみなかったな。似合わんて、気色悪ぃわ。」
「ふふ、やっぱり似合わないかな。最近やっと少し、言うこと聞いてくれるようになったんだけどね。」
ファントムの細い指が、つっ、とアルヴィスの唇を辿る。
抱き込まれたアルヴィスは、けれど身じろぎすらしない。けれど彼の手を見ると、爪が食い込むのもお構いなしに握り締めていた。
しないのではない、出来ない…のか?
「まあいいや。とりあえずこの試合は、君の勝ちでいいから。」
「待ちぃ、逃げる気かいな!?」
「逃げる?」
途端、大気がざわつくのが分かる。びりびりと肌に痛い、ファントムの魔力。
知らず、半歩退いてしまう。・・・これが、No.1ナイト。
「おかしなことを言うね。僕はただ、外に出てしまったペットを連れ戻しに来ただけだ。」
にやりと、凶悪な笑み。正に捕食者のそれだ。
「それとも、今ここで僕と戦って、勝てる自信があるとでも?」
その言葉に黙りこくる一同を、さも当然のように一瞥して…
そして彼らは、その場から掻き消えた。



慌てて自分の勝利をコールするポズンの声すら、遠く聞こえる。

「頼む、俺を、殺してくれ。」
土煙に消える直前に放たれた言葉とあの瞳がどうしても、頭から離れてくれなかった。





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あとがき。

続けて2本アニメル沿いだったので、ちょっと違う感じにしてみましたが、結局ファンアルです(爆)
時系列はいつなんだとかフィールドはどこなんだとか聞かないで下さい、考えてないので。(この女言い切った!)

設定としては、
・アルちゃんは6年前ファントムと初邂逅の時点でお持ち帰りされている。タトゥ入れられたのもその時。
・タトゥが大分進んでいて、正気を保ってられる時間が短くなってきている。
・その限られた時間の中で必死に死に場所を探している。だからこっそり試合に出てみた。
…こんなカンジでしょうか。

とりあえず、ナナシがものっそい難しかった。いや、動かしやすいにはやすいんだけども、大阪弁が…。
はとさん関東圏の人間なので…何か変なとこあったら教えてください。





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