もう十分に、空は満喫しただろう?
だから戻っておいで、この籠の中に。
光が差し込むことのない城の中。
そんな中にあって今の彼はほんとうに、そのまま闇に溶けていってしまいそう。
「アルヴィス君。」
ぐい、と手元の鎖を引けば、従順に足元まで擦り寄ってくる。
やっと素直になってくれた彼。
あのギラギラした反抗的な目も魅力的だけれども、愛玩動物のような今の状態もそれはそれで可愛らしい。
また鎖を引いて、彼の耳に顔を近づける。
「ギンタたちが、この城に来ているよ。」
微かに反応を示したのは耳が弱いからなのか、それともその名前にか。
「君を迎えにきたんだね、きっと。」
彼を見たら、あの子はどう思うのかな。光の塊のような、あの子供は。
己の永遠すら軽く越えていった子供を今度こそ絶望に叩き落すことは、出来るだろうか。
「でもそんなこと、君は望んでいないよね。君は僕の傍で生きていくんだものね…永遠に。」
こくりと、頷く。まるで幼子のような仕草に、惹きつけられる。
喉の奥で低く、くつりと笑う。
もう遅いよ、ギンタ。…彼は、僕のものだ。
「なら、彼らを殺しておいで。…君自身の、手でね。」
「………。」
「返事は?」
「…はい。ファントム様の、仰せの通りに。」
「いい子。」
虚ろな目の彼に満足して、首輪についた鎖を外す。
それはしゃらりと、とても綺麗な音を立てて、床に落ちた。
戻って来た彼は、とても酷い状態だった。
…流石はギンタ、と言うべきだろうか。ここまで揺さぶりをかけることができるとは。
数刻前と同じように、耳元で名前を囁いてみる。
途端、跳ねる肩―――明らかな、拒絶。
「…もう遅いよ、アルヴィス君。」
酷く猟奇的な笑みを浮かべているのを自覚する。
決して、逃がしなどしない。6年も待ったのだから。
「君は彼らを傷つけた。そんな君を、今更彼らが受け入れるとでも?」
「―――っ、いやだ…、おれは…っ!」
「その痛みは、彼らには理解できない。だから、僕だけ。君の事を分かってあげられるのは、僕だけ。」
「いやだ…っ、いやだ…!」
駄々をこねる子供のように、ただそれだけを繰り返す彼。
やれやれ、と溜息を一つ、落として。
「もう、独りはいやだろう?」
また、びくりと震える身体。瞳のサファイアに浮かぶのは他でもない、恐怖。
「やだ…ひとり、は、」
掠れた声で、必死に訴える彼。
―――かかった。
己の中の嗜虐性がにんまりと嗤う。
「なら、ここにいればいい。ここなら君は、独りにならない。…僕が傍に、いてあげる。」
その言葉に、一瞬目を見開いて、…次いでがくりと、膝を付く。
その姿に、勝利を確信して。
「…永遠に…ね。」
耳元でそう、吹き込んで。また首輪に鎖を付けてやる。
がちりという音が、小気味好いくらいに、暗い部屋の中に響いた。
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あとがき。
初ファンアルです。そしてまたアニメル沿いです。
89話、ギンタ戦の前後にこんなやりとりあったらいいなという妄想と、何で首輪がなくなってるんだという抗議の気持ちを込めて。
あと、やっぱりトム様には「アルヴィス君」と呼んでもらいたいのですよ…。
アルちゃんの瞳をサファイアと表しましたが、アルちゃんの瞳って何色なんでしょう…緑っぽく見える時もあるし…赤く光ったりもするし。
原作では青なので、サファイアにしてみたんですけど…。
トム様、予想通り凄い書きやすかった。鬼畜な攻めほど書きやすいとか救えない。