確実に破滅へと向かっていく2人を目にしながらも。
罪深い己は、けれどきっと、見ているだけなのだろう。
城の中庭、まったりと日差しがまどろむ小さな花畑。
さくり、と草を踏む音が聞こえて、十代は音のしたほうを振り返った。
「おおきなにいさまだ!」
「久しぶりだな、十代。覚えててくれたのか。」
十代がこの世で『にいさま』と呼ぶ二人目。それが覇王と十代、彼ら双子の異母兄である彼…ユダだった。
「かあさまがね、いわれたことをわすれるのはわるいこだっていったの。だからおれは、おおきなにいさまのことわすれないんだよ!」
「…十代、」
眉を寄せて、少し困ったような異母兄の微笑。けれど十代はその笑みに含まれる悲哀に気付かない。
彼女は何も知らない。どこまでも、どこまでも白く。見るものに恐怖すら抱かせる程に。
「なあ、十代。覇王のことは好きか?」
方膝を付いて、覗き込んでくるオレンジとマスカットの甘酸っぱいオッドアイ。
その瞳に、十代は生クリームのような甘く甘ったるい笑みで返す。
「だいすきだよ!」
日の光すら眩むようなその表情に、けれどユダの顔には影が差して。
「十代…十代、…俺の可愛い妹。なあ十代。よく聞いて。」
「なあに?」
言葉を発しようと口を動かそうとした、まさにその瞬間。
「帰られていたのですか、兄上。」
漆黒と王の名を纏う双子の片割れが、瞳の黄金を刃のように尖らせて、そこにいた。
「十代。侍女がお前のことを探していたぞ。…そろそろ部屋に戻れ。」
「うん!わかった!おおきなにいさま、またね!」
ぱたぱたと駆けていく十代を見送って、覇王はユダに向き直る。
「…よう、覇王。」
「十代に、何を言おうとしていた。」
不機嫌を隠しもしない声で、覇王は返す。
瞳に宿るのは、紛れもない怒り。
「……。」
「兄上ともあろうお方がだんまりか。…どうでもいいが十代に余計なことを、吹き込まないでもらえるか。」
その言葉に、覇王の表情に、ユダの危機感は一層募る。
覇王も、十代も、どちらのことも愛おしく思っている。可愛い弟と妹だ。
けれど今。確実に二人の舵はよくない方向へ傾きはじめている。何とかして、戻してやらなければならない。
生まれながらにして業を背負った己とは違い、二人はいくらだって幸せになれるはずなのだ。
なのに。なのにどうしてそれを自分から捨てようとするのだ。
「…覇王。お前が、十代を好きなのは分かる。けど…なあ覇王。お前だって分かってる筈だ。」
「そのぐらい、分かっている。…けれど兄上。」
ざあと、風が吹き抜ける。ひらりはらりと、幾枚かの花びらが風に乗って、見えなくなった。
「俺には…十代を手放すことなど、出来ない。」
一人きりになった中庭で、ユダは天を仰いだ。
「……やっぱり…止められない、のか…。」
やりきれない思いで、ユダは橙と蒼の瞳をそっと閉じた。
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あとがき。
自重できなかったサーセン!どうしても書きたかった3兄弟ネタ。
何も白痴でやらなくても!という皆様のお声が聞こえてきそうです。もっともだと思います。
(08.07.27)