壊して、しまおう。
そうして、2人きりの世界になってしまえばいい。




暗い、暗い闇が見渡す限りに広がっていた。
無数の鏡がぼんやりと浮かび、時折ひとりでに割れてゆく。
破片は溶けるように闇に消え、ほんのひとかけらすら残りはしない。

あらゆる音が排除されたかのようにも感じる世界。
十代はただただ、真白なカードを見つめ続ける。
絶望を溶かし込んだ黄金の瞳は、しかしその実なにも写してはいなかった。
何も見たくない。何も聞きたくない。
だって世界の全てが、己を拒絶する。
―――だから何も見たくない、何も聞きたく、ない。

けれど世界は残酷な運命に、十代を駆り立てるのだ。

またどこか遠く(否、近くなのかもしれない)で鏡が割れた。
その音に呼応するかのように、手にしたカードに色が宿る。
火花のような、渦のような。引き込まれそうな、力。
あまりに強大なそれに、知らず十代の喉は引きつった声を上げる。
恐怖に駆られるままカードを捨てようとしたその腕に、
背後からそっと、別の手が添えられた。

「何故、手放す必要がある。」

問いかけるその声は知らない声。けれど己の声。
「ようやく完成した、俺達の力だ。…何故手放す。」
「俺…には。もう、力なんて、いらない…、」
大切だったものは、守ろうとしたものは、何もかもこの手からすり抜けていった。
からっぽの自分に、今更、力などと。
途切れ途切れの自分の声に、背後の男はくつくつと、嗤った。
「ならばこれは、俺が預かろう。」
そう言って、ついと十代の手からカードを抜き取る。
カードを奪い去ったほうとは別の手が、唇をゆったりとなぞる。
人間の温もりなぞ微塵も感じられない、冷たい手。
(甲冑に身を包んでいるのだから、当たり前といえば当たり前なのだけど)
「お前を傷つけるこの世界なぞ…滅ぼしてしまえば良い。そう…この、力で。」
耳元で男が、そっと囁く。
男の声は、いつになく楽しそうなものだった。


「哀れで愛しい、俺の十代。お前はただここで、待っていれば良い。」




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あとがき。

初書きでこの暴走っぷり!流石です覇王様。
そしてはとさんは覇王様の甲冑姿がお気に入りのようです。

ブログ掲載:11/21
サイト掲載:12/8(冒頭微修正)





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