それは、幕間の物語。
また幕が上がるまでの、ほんのつかの間の。





diabolus in musica―――entr’acte3(アントラクト)





「…今日からここでお世話になります、くらいのことは言えないのか。」
「お世話になります?」
おどけてそう返すと、壮絶な眉間の皺と盛大な溜息。
窓の傍の金髪の女性はくつくつと声を殺して、けれど心底楽しそうに笑った。
「俺はツェス。…“サンクトゥス”の隊長をやってる。あっちはアイスだ。」
アイスと呼ばれた、顎で指し示した窓際の女性は笑顔のまま、ひらひらと手を振る。

それが、最初だ。あの堅物との、出会い。



「…昨日までに出せと言った筈なんだが。」
「まあいいじゃねっスか。事後報告くらい、一日遅れたって。」
「これを処理するほうの身にもなってくれ。全くお前といいアイスといい…。」
また溜息。溜息を吐くと幸せが逃げるというけど、それが本当ならこいつはとっくに
一生分の幸せを逃がしているだろう。そう思わせるくらいに、こいつは溜息を吐く。
原因の一端に自分がいるだろうという自覚はあるにはある。けどこれが自分の性分なんだから、
仕方が無いじゃないか。


彼は、他人の為だけに生きているような気がしていた。溜息はそのせいではないかと、時々思うことがある。
自分の心を押し殺して、ただひたすら他人の為に。

・・・本当は、もっと自由に生きたいんじゃないのか?



「俺はさあ。正直言って、殺しが出来ればそれでいいんスよ。あの組織の安全なんて、
知ったこっちゃ無い。」
そう、血の匂い、薬莢の転がる音、断末魔、その刹那の表情。
あの瞬間が、自分の全てだ。あの瞬間こそが、自分の生きる世界。だから他には、何もいらない。
「親父さんが聞いたら泣くな。」
「まあね。…で、アンタは何があればいいんスか?これがあれば他には何もいらない!…ってモン、
アンタにもあるだろ?」
金?名誉?愛?家族?人それぞれ、けれど何かしらある筈なんだ。
何かに執着しなければ、人は生きていけないのだから。
「…無いよ。」
ぽつりと、けれど確かにそう、彼は言った。
「俺には、無い。…何かを求める資格など、俺には在りはしないんだ。」



「あったじゃないっスか、あんたにも。」
小雨そぼ降る中、ディスは彼の墓の前にいた。墓と言っても、大層なものではない。
“裏切り者”の彼の亡骸をヴァルツェは放っておくようにいった。けれど、あの教会の傍に生えていた大木の
根元に、埋めた。
上には適当な大きさの石を載せて。墓だと言われなければ、分からないような墓をそっと、作った。


結果として、彼は命を落とした。
けれど最後の最後で自分の為に生きた彼はあの瞬間、確かに執着していたのではないだろうか。
「アンタは、愛でも恋でもないっていったけど。」
あの少女に…あの少女の幸せに、彼は執着していたのではないだろうか。
ふと、溜息を零している自分に気付いて、苦笑する。
「らしくねっスね。」



「暇があったら、また来るよ、隊長・・・いや、エイジス・シルバーハート。」


雨はいつのまにか、上がっていた。





TOP



あとがき(要反転)
三周年とか爆笑。まさかここまで続くとはってゆうか休止2回挟んでるから実質三年もやってない罠。
今回は残りのシャペルメンバー、ツェスとディス。ディスはもっと本編で出してあげたかった…。
今回は過去編と、ちょっぴりエピローグみたいな。
幕間とか冒頭で抜かしてる癖してもう終わってる罠。アイタ!





Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!