ひとりぼっちのきみたちへ。
phase02
「何で貴様がここにいるんだ!姉さんは…姉さんはどこだあぁッ!!」
青白い顔をぐしゃりと歪めて、細身の王子は喉よ裂けよとばかりに叫んだ。
「王子。私めの従僕がとんだ不始末をいたしました。…後ほど相応の罰を与えます故、気をお静めください。」
仮面が相変わらずの抑揚の無い声でガラハッドを宥める。
獣がするようにこちらを威嚇してくる王子。…ほんの数日前まで、気弱そうな少年だった筈、なのに。
「それより王子。王子はアイラ姫をお探しください。まだそう、遠くには行かれてはいないでしょうから。」
その仮面の言葉に、そうだ、姉さん、と何かに追い立てられるように呟いたかと思うと、
綺麗にくるりと踵を返して部屋から出て行ってしまった。
その変わり身の早さにも、今の彼の精神状態が普通の状態に無い事を感じる。
テラスに、月光と沈黙が落ちる。
「…指輪を、渡したのですね?」
不意に、仮面が問うた。
元から機械的な声…けれど更に冷たく感じるのは気のせいなのか。
だんまりを続ける自分に仮面は。
「全く、仕様の無い子ですね。」
そう、一拍置いてから。
「シオン。」
母の声。
それは何より自分にとっての楔。
「……っ…!!」
顔を上げた先にあるのは優しい顔でも厳しい顔でもない。何も映さない仮面。
けれど謡うような母の声で、仮面は続ける。
「あの指輪は、あなたが思っている以上に、あなたにとって必要なものなのよ。」
仮面の手が、己の頬に伸ばされる。
違う、これは母の手ではない。こんな、冷たい手じゃあなかった。
「指輪の力なくして、あなたは完成しない。あなたなくして、指輪は完成しない。」
では、これも母の声ではない?…否、これは母の声。
世界に本当にただ一人だけの、血を分けた肉親。
「そうして完成したあなたこそが、真に私にとって必要なの。」
愉しそうな、声。
「かあ、さ…、」
「これが最後通告よ、シオン。以降私に背くようなことがあれば、あなたの大事な人も、あなたの心も。
…無事ではすみませんからね。」
自分に出来たのは、あの日と同じように膝を付くことだけ。
そう、無力な自分を、嘆きながら。
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