ようこそ星合荘へ〜201号室・遊城3姉弟編〜
玄関でただいまぁ、と気だるそうな声がした。かん、かんとヒールの音が遅れて響く。
あの音ではきっとまた脱ぎっぱなしに違いない。全くあの姉はどうしてこうもだらしないのか。
油に浮かぶエビフライをつっつきながら、覇王は深々と溜息を吐いた。
「たっだいまぁ〜。ケーキ買ってきたぞ〜。」
「…靴を揃えてこい。話はそれからだ。」
視線も合わせずに言い放った長男・覇王に、長女・ユダは隠しもせず盛大に不満の声を上げた。
「お姉様がわざわざケーキ買ってきてやったっていうのに労いの言葉は無いのかよ〜!」
「寝言は寝て言え。姉上は毎年それだけだろう。ましてや普段から家事なぞ何もしないのに何を言うか。」
「だって料理は覇王のが美味しいしぃ。このせっまい部屋なんて掃除しても意味無いし。買い物?めんどい。」
ごろぉん、とだらしなく畳の上に豊満な身体を投げ出して寛ぐ姉。…そういう意味で寝ろと言ったんじゃあない。そして靴を揃えてこいと言っている。
それが出来ないならせめて服を着替えてくれ。アイロンをかけるのは誰だと思っているんだ。
この姉は、いつもこうだ。基本的に、彼女に出来ないことは無い。なのに自分が興味を持った事しかやろうとしない。
超絶的に、自分勝手かつ自由奔放極まりない人間なのだ。
せめてまっとうな方向に興味を向けて欲しいものだが、彼女が目を輝かせる事といったら全てが発禁もののあれやこれやで。
…あぁ、もうこれ以上言いたくない。
からりと揚がったエビフライを盛り付けながら、覇王は何度目かの溜息を吐いた。
「ってか、十代は?」
「隣に預けてある。夕飯の時間になったら帰ってこいと言ってあるから、そろそろ帰ってくるだろう。」
ふぅん、と気のない返事を返しながらも、そわそわと落ち着かない姉の様子がなにやら滑稽だ。…遠足前の小学生か。
派手目なバッグの隣に置かれた、子供っぽいカラフルな包装紙の包みとドアを交互に見やりながらごろごろ寝返りを打っている。
その度紅いワンピースの裾にぐしゃぐしゃと刻まれる皺。もう溜息を吐く気にもならない。
その時ドアが、がちゃりと鳴った。ドアノブの音に素早く反応した姉の頭に犬の耳が見えた。…そんな馬鹿な。
「ただいまー!…あ、姉ちゃん!おかえり!今日は早く帰ってきてくれたんだ!」
「ただいま〜。可愛い十代の誕生日だもん。仕事なんてやってられるかよ〜。」
不規則な仕事をしている彼女だが、1年のうち今日というこの日には必ず夕飯の時間に帰ってくる。猫かわいがりしている末の弟の、誕生日。
誕生日おめでとう、と精一杯弟を抱きしめて刻まれたワンピースの皺に、けれど今日だけはまぁいいかと、思った。
脳内キャラ設定201号室編
ユダ(?)
3姉弟の長女。20代前半と思われるが年齢不詳。実は姉弟ではなく母子なのではないかという説が実しやかに流れている。
ドSでビッチだが弟達を溺愛している辺り悪人ではない。彼等の誕生日には必ずケーキを買って帰る。
SMクラブで女王様をしているとか、いや実は殺し屋なんだとか、悪魔と契約してるだとか不穏な噂が絶えない。
覇王(17)
長男。遊城家の家事を一手に担っている主婦。3姉弟中唯一のツッコミ属性。そして苦労人。奔放な姉と弟に挟まれ今日も溜息が絶えない。
202号室のアルヴィスくんとは年が近いせいかたまに愚痴り合う。苦労人同士気が合うらしい。
彼に喧嘩を売った不良が化け物に再起不能にされたという都市伝説がある。
十代(10)
次男。姉と兄の愛情を一身に受けて只今成長期まっさかり。性格はどちらかといえば姉寄り。たまに心を抉る一言を容赦なく放つ。
202号室の弟くんとは同級生。よく二人で遊んでいる。そして最近引っ越してきた204号室の兄ちゃんに肩車をしてほしくてしかたがない。
見えないものが見えると評判。たまに虚空に向って会話している。