卵殻は、破られねばならない。
雛は、孵らねばならない。
膝を折りカタカタと震える様は酷く頼りない。震えを止めようとするかのように己が両腕で身体を戒めても、それは一向に治まらない。
だから彼はより一層きつくきつく、身体を抱き締める。
ぎりり、と爪が腕に食い込む様は、自衛というよりはむしろ自傷に近かった。
腕の手に、己の手を重ねる。温度は分からない。俯いていて表情すらも見えない。ただ震えている、それだけが伝わってくる。
顔を近づけると、掠れた声が聞こえた。勝ったのに、勝ったのに。何が悪かった。何が。何が。何が。
それだけを、ただひたすらに繰り返す。己の無力を呪う呪詛の言葉を延々と繰り返す。
「十代。」
名を呼ぶだけで、彼の身体は痛々しい程に跳ねた。
仲間も、デュエルも、全てに切り捨てられた。そんな彼が今もつ最後の持ち物。己の名前。しかしそれすら、彼を傷付ける凶器にしかならない。
それでも、呼ばねばならない。
…彼の名を、呼ばねばならない。
「十代。」
己がこうして守ってやれるのは、あとどれだけの時間だろう。
負ける気は無い。斃れる気もさらさら無い。出来ることならばこうしてずっと彼を閉じ込めていたい。
けれど、卵殻は破られねばならない。
―――雛は、孵らねばならない。
「………十代。」
応えは返らない。彼は未だ、終わる事のない贖罪を続けている。
こんな状態の彼を表に出すなどできるわけもない。まだ立てもしない羊の赤子を狼の群れに放り込むようなものだ。
だからせめて。せめてもう少しだけ。一人で立てるまでとは言わない。せめて、彼の身体の震えが止まるまで。
時間を稼がなければならない。その為ならばどんなことだろうとしよう。その為の、力。
彼を呼び起こそうとするなら、たとえ彼のかつての仲間でも容赦はしない。
ばさりと血塗られた色のマントを翻し、覇王は背後の男を睨みつけた。
それは雛を温められない卵殻のお話
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あとがき。
覇十なのに十代喋ってNEEEEEE!!あっ因みに最後の「背後の男」はオブです。
リクエストありがとうございました湖斗瀬さま…なのに十代喋ってなくてすみません…こんなのでよろしければお納めくださいませ…
(2011.01.30)