ノックをすると鷹揚な返事が返ってきた。失礼しますと断りを入れ入室する。
向かっていた書類から目を上げた領主はルシファーの手にあるものを見止めて。

大きな溜息とともに盛大に顔を顰めた。



「失礼いたします。ロノウェ様から、戦人さまにお薬を持っていくようにと言付かりましたので。」
「あー………。………そこに置いといてくれ。」
逃避の姿勢しか感じないその返事。早々と書類に視線を戻す。まるで子供だ。
「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!ほらさっさと指輪を外す!」
「分かった、分かったっての、ちぇ。」

渋々、指輪に手を掛ける。掛けて、ルシファーを懇願するように見上げ、やはりというか何と言うか睨まれた。
左手の薬指から指輪が外れる。大事そうに、まるで壊れ物を扱うかのようにそっとそっと、彼はその指輪を机の上に置いた。
薬指の根元には薄く布が巻かれていた。顔を更に顰めながらそれも外す。布の内側にはぽつり、ぽつりと染みが付いていた。赤茶色の生々しい染み。
そして布が外された指は。赤く引き攣った爛れた皮膚。指がくっついているのが不思議なくらいの、いくつもの抉られた痕。
否。それを傷痕とするには……あまりにも。
ルシファーが消毒液を浸したガーゼを傷口に当てる。声は無かったが気持ちのいいものでもないだろう。現に口元に手を当て視線を逸らしている。
じわり。ガーゼが微かに血の色を帯びた。
ヱリカとのあの婚礼で彼が嵌められた指輪は正にヱリカそのものを体現したかのような指輪だった。しつこく禍々しく強力な呪いの塊。
砕けはしたもののその余波は未だこうして戦人の身体を蝕んでいた。
「…痛みは。」
「…もうほとんどねぇよ。何だよ、お前が心配なんてらしくねェな。」
茶化すような戦人の言葉にルシファーの動きがびしりと凍った。
かたり、かたりとポルターガイストのように震えだす様を見てまずいと思ったがもう遅かった。
「心配したわよ!ベアトリーチェ様もロノウェ様もガァプ様もワルギリア様も妹達も心配したのに私は心配しちゃいけないの!?あんな、あんなの、
 知ってても心配するに決まってるでしょうッ馬鹿戦人!!あんな!馬鹿なゲーム!二度とするんじゃないわよ分かったわね聞いてるのッッ!?」


沈黙。


言ってしまってから、言われてから。合った視線が互いにぱちくりと瞬く。
「…、いや、その、」
「………あー………お前、…可愛いな………。」
覆った口元の端が、逸らした横顔が悪戯っぽい笑みに染まっているのが見えてしまって一瞬で全身が沸騰した。
消毒液がたっぷり染み込んだガーゼを思い切り傷口に押し付けてやる。上擦った情けない悲鳴が部屋に木霊した。いい気味だ。

ああもう絶対に言うものか金輪際言うものか思ってても言ってなんかやるものか!



幻想に塗れたこのおかしな世界の中であなたが一番大好きです!!





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あとがき。

お察しの通りマミった手羽先に一人寂しくマ○ロンしてるときに思いつきました

(2011.07.20)





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