ただその雪解けを待つ、
野営地の強襲を明日に控え。打ち合わせのためブランネージュはシオンを探していた。
いや、それはほとんど口実だった。作戦の手順より何より大事なことを、彼に確認しておかなければならなかったから。
記憶の無い彼はただ周囲に流されて戦っているように、ブランネージュには見えた。
だから確認しておかなければならない。本当に戦えるのか。本当に、人を、斬れるのか。
勇者亭や勇者小路に彼の姿は無かった。あまり一人で遠出するタイプには見えなかったけれど、買出しにでも行っているのだろうか。
大通りまで足を伸ばす。ルーンガイストが攻めてきているにも関わらず、そこそこの人手で賑わっていた。
それは城壁に対する絶対の信頼故か。それともただ単に現実を認めたくないだけなのか。
国を守りたいという気持ちは一国の王女としてよく分かる。
けれどシルディアの住人の非協力的な態度を見ていると、どうしてエルウィンたちがああも必死に戦おうとしているのか理解に苦しむ。
…首を振って余計な考えを振り払う。しゃらり、しゃらりと短くなった銀糸が舞った。
(ルーンガイストを止める。私はそれだけ考えていなくては。余計な思考は、命取りだわ。)
そうして、溜息とともに上げた視線の先。
(いた。)
遠くに揺れる茶の髪が見えた。手に荷物は無い。どうやら買出しではないようだった。
少し歩いては立ち止まり、店や、看板や、景色。行き交う人の流れ。そういったものを目に留めて、考えるように眉を寄せて。
諦めの表情とともにまた歩き出す。
その横顔が。酷く寂しく、遠く感じて。…ブランネージュは逃げるように、その場を後にした。
勇者亭に戻ると、エルウィンの能天気な声が出迎えてくれた。「普段」に引き戻してくれるその声が酷く心強い。
いつもは煩わしく思っている癖に我ながら都合のいいことだ、と心の中だけで呟いた。
「あれー?シオンは?見つからなかったの?」
「いや、中央通りのほうにいたが…少し、忙しそうだったから。声をかけずに帰ってきた。」
「ふぅん、」
エルウィンとの会話は大体いつもそこで終わる。初めはよく纏わりつかれたものだが、自分が構われるのが好きでないと悟ったらしい。
ヴォルグに冷たい飲み物を貰い、いつもの…勇者亭の端の席へ。ついたところでエルウィンがするりとやってきた。
「ごめん。ちょっとだけ、いい?」
「…何だ?」
珍しく断りを入れてきたエルウィンに何かを察し、半身だけ振り返る。
視界に入ってきた彼女はいつもの溌剌さを削いで薄く、淡く微笑んでいて。まるで女神の彫像か何かかと思う。
「ありがと。…シオンに、声かけないでくれて。」
「礼を言われることではないだろう。」
ううん、とエルウィンは首を横に振る。
「”あれ”はね、探してるの。町を歩いて、色んなものを見て、自分の記憶に繋がるものがないか探してるの。…まぁ、見つからない、みたいだけど。」
「…だろうな。」
エルウィンの言う、”あれ”。彼女も見たのだろう。あの、寂しく遠い、横顔を。
「一人だときっと辛い。けどアタシたちが声をかけて気遣ったら、あの子は探すこともきっとやめてしまう。だから…ありがと。」
返す言葉が見つからず、ただ曖昧に頷くことしかできなかった。
勇者亭のドアが鳴る。シオンが帰ってきたようだった。エルウィンはいつの間にか己の傍を離れいつものようにシオンを茶化している。
横目だけで彼の表情を盗み見る。…いつもの、頼りない、柔らかな。けれどどこか、疲れたような。
話すことが、確認しなければならないことがあるけれど。…明日にしようと、そう思う。今の彼に荷を背負わせるのは、どこか気が引けた。
同情?それとも?掠めた思考にありえないと自重する。
コップを引き寄せると、かろん、と氷が涼やかな音をたてた。
溶けた最初のひとしずく
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あとがき。
シオブラというリクエストなのにシオンくん不在といういつものはとさんクオリティ。みかんさま申し訳もない。
EDのようなデレ全開のブラン姉も可愛いけど初期のツンツンも可愛いですブラン姉可愛い
みかんさまお待たせをいたしました!リクエストありがとうございます、どうぞお納めくださいませー
(2011.07.01)