眠れ、眠れ、愛しい我が子





戦人が熱を出した。初めてその報告を聞いた時の主の表情を、生涯忘れることはないだろうとルシファーは思う。
ベアトリーチェに拾われて間もなくの頃、彼はよく体調を崩したものだ。
その度に大騒ぎして甲斐甲斐しく世話をする主の姿に、これは本当にあの魔女ベアトリーチェなのかと真剣に考えたこともあったものだ。
しかし年を経る毎に戦人が体調を崩すことも少なくなり、あの主の姿を見ることもなくなっていったのだ。


一礼して部屋を退出する。視界から彼らの姿が消えた途端、どっと疲れが肩に圧し掛かった気がする。
扉の向こうから聞こえる「戦人ぁああぁ〜、」という情けない主の声に、ルシファーは溜息とともにその言葉を吐き出した。

ベアトリーチェ様、それはただの風邪です。




両手で握り締めた手は、酷く熱い。ぜいぜいと浅い呼吸を繰り返す我が子は今にも死んでしまいそうに、ベアトリーチェには見えた。
連れて行かれたくなくていっそう手をきつく握ると、視線の先で戦人が目を覚ますのが見えた。
「………ひっでぇ、顔。」
母の顔を見て、戦人が苦笑する。涙と鼻水でぐしゃぐしゃで、普段の美貌はどこへやら。
すんすんと鼻を鳴らす様は、とてもじゃないが魔女には見えない。
「そ、そなたが悪いのだぞ、うぅう、そなたがそんな…死にそうに…っうぇぁあああぁあん戦人ぁああぁあ〜!!母親より先に死ぬなよこの親不孝者ぉおおぉおぉお!!」
「…勝手に、人のこと…殺す、なっての………やめ、揺らすな、……マジ吐く…っ!!」
顔色を悪くした戦人に、ベアトリーチェがますますに泣き叫ぶ。当分寝室に静けさは、訪れそうもなかった。




額にひんやりとした感触を感じて、目を開く。ベアトリーチェが額のタオルを変えてくれていたようだった。
「すまぬ、起こしてしまったか。」
「ああ、いや…大丈夫。………大分、良くなったし。」
笑ってみせると、母もぎこちなくだが笑ってくれた。目は腫れていたがどうやら気分は落ち着いたらしい。
「…そうか?……しかしまだ顔が赤いぞ。…もう少し寝ておれ。」
「…ベアト、」
掛け布団を直して離れていく手を、引きとめる。酷く乾きを覚えるのは、熱のせいだろうか。
「なぁベアト。…思うんだ。寝て、目が覚めたら俺はここにいないんじゃないかって。」
「…戦人。」
「いままでのが全部夢で、…本当の俺はあの森の中で、一人で、…死んでるんじゃないのかって。」
瞼を閉じて、開くのが怖い。
手に入れたからこそ、失うのが怖い。
ここに来たばかりの頃は、それがずっとずっと怖かった。けれど、ベアトがいつだって傍にいてくれて、愛してくれた。
だからもう彼女を、母を疑うまいと決めたのに。彼女の言う事だけ信じていようと、そう決めたのに。
こんな気弱な思考を思い出してしまうのは、熱のせいだろうか。
母を裏切るような思考の後ろめたさに視線を外すと、間髪入れずに抱き締められた。ふわりと、甘い香り。
「一人になど、させぬぞ。」
いつになく、真剣な声音。抱き締められていて、表情は見えない。けれどきっと、射抜くような、真っ直ぐな眼差し。
「だから安心して眠るといい。ずっとこうしててやるから。…それでも不安なら、久しぶりに子守唄でも唄ってやろうか?」
「…ん、」

熱とは違う、心地よい温もりに目を閉じる。
流れるような綺麗な旋律を遠くに聞きながら、戦人はゆっくりと意識を手放した。



魔女と迷子のクレイドル





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あとがき。
ギャグで始めたならギャグで落とせばいいのにシリアスで〆るというはとさんの悪癖発動!
というわけでカプリチオ設定でのベアバトリクエストでした!如何でしょうさつきさま…年齢お任せってことだったので好きに書いちゃいましたが…。
一応この戦人さんは17〜8ぐらいを意識して書いてます。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら戦人さんの看病してるベアトが書きたかっただけ。ベアトそれただの風邪や。
ではさつきさま、リクエストありがとうございました〜!

(2011.01.15)





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