昔話を、しましょう。






用事で魔界へ出ていたベアトリーチェが帰ってくるなり迎えたのは、七姉妹の姦しい声だった。
「うるさいわよお前達!順番よ順番!」「ずるいずるいぃ私が一番心配してるのぉお!」「なんとかしてください!」
「私が言うからお前たちは下がっていろと!」「駄目っ私が言うのっ!」「ご飯も食べないんですよぅ!」「とにかく大変なんですよぉ!」
女が三つで姦しい。ならそれが七つならどれだけの騒々しさになるのだろうか。頭に響く叫び声に、ベアトリーチェの機嫌は一気に降下した。
「えぇい、喧しいわッ!なんだそなたら、主が帰ってきたというにその態度は!」
口々に喚く七姉妹を鬼の形相で一喝すると、彼女らは一斉に同じ仕草で身を竦めた。
が、それぐらいのことで一度曲がったベアトリーチェの機嫌が直る筈もなく。さらに叱りの言葉を吐こうと口を開きかけたところで、
絶妙のタイミングでロノウェがそれを遮った。
「………おや。そういえば戦人様がいらっしゃいませんな?」



「こんな所におったのか。七姉妹が随分と騒ぎ立てておったぞ。食事もとらずに何をしておる。」
肖像画を見上げていた小さな影が、ゆっくりと振り返る。
出会った頃よりも子供特有の丸みは消え、すらりとした輪郭を描いている。小さかった迷子は確実に、少年から青年への旅路を歩みはじめていた。
「………。…ベアト、」
「そなたのために沢山土産も用意したというに。ほれ。おかえりなさいのチューはどうした?」
揶揄するように言ってみても、彼は憮然とした表情のまま、肖像画の前から動こうとしない。
それどころか、ベアトリーチェが一歩を踏み出せば後退りまでする始末。流石に、これはおかしい。
逃げようとする戦人を壁際まで追い詰め、手を壁について閉じ込める。膝をついて顔を覗き込む。
背後には母の肖像画。眼前には射抜くような眼差しで見つめる母親。無言の圧力に、項垂れて何かを言おうとしては口を噤むのを繰り返して。
何も言わず、ただ彼が折れるのを待っていたベアトリーチェの耳に、遂にそれは届いた。
「………。…帰って、こないかと、思った。」
「戦人、」
「帰ってこないかと思ったッ!ベアトが俺に嘘言ったことないって分かってるけど!でもっそれでも帰ってこないかと思った!
 ベアトのこと信じられないのに優しくしてもらえる訳がないって、だから、だから俺…、俺…!」
魔法の源泉は、信じる心。ずっとそう教えられてきた彼にとって、「信じられない」という事実はどれだけの衝撃だっただろうか。
ましてやその対象が、やっと手に入れた、自分を愛してくれる存在なら尚更。

「戦人。」
呼びかけに、戦人の肩がびくりと大袈裟なくらいに跳ねた。捨てられる。捨てられる。恐怖が膨れて溢れて零れ出る。
音が聞こえてきそうなくらいに手を握り締めて執行の時を待つ子供を、そっと。そっと、魔女が抱き締める。
「…それぐらいで、妾がそなたを逃がすと思うのか。妾も舐められたものだ。」
温もりに包まれて、ベアトリーチェの言葉を幾度か反芻して。ようやく理解したその意味に、子供はくしゃりと顔を歪めた。
「俺。…まだ、ベアトの子供でいられる?」
おずおずとベアトリーチェの背に手を回しながら、戦人が問うてくる。
必死にしがみ付こうともがき、足掻く子供を、母親も。ベアトリーチェも必死に抱き締める。
「まだ、ではいつか終わりが来るということ。そうではなくて、ずっと。ずっと、だ。そなたはずっと、妾の子供だ。」

魔女と迷子の歪な、けれど確かな愛情を。肖像画に描かれた蒼い瞳だけが、見ていた。





魔女と迷子のメヌエット





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あとがき。

というわけで最後のリクエスト。「魔女と迷子のカプリチオ」番外編で、ゲーム開始以前の2人というリクエストでした。
昔すぎただろうか。本能の赴くままに書いたら10才とかぐらいの戦人さんになってしまった。そんな馬鹿な
カプリチオは今となってはありえない設定ですがでもお気に入りだったのでリクエストいただけて嬉しかったです。
ありがとうございましたー!

(2010.04.30)





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