この楽しい時間が、ずっとずうっと続いて欲しいから。
モノを壊すのは、容易いことだ。
けれどその楽しみは一度きり。砕けてそれで、はいおしまい。
「でもそれじゃあ、面白くないだろう?」
語りかける声は、とても静かなものだった。聞いていて思わずうっとりしてしまうような、そんな心地いいアルト。
少年というには大人びていて、青年というには少し幼い。これから伸びていくものの、発達していくものの美しさ。
透き通った髪の色と相俟って、彼は酷く幻想的に見えた。
「だから壊さない。お前のことが大好きで大切で愛おしいから。ずっとずっと、一緒にいたいから。」
歯の浮くような。熱烈な、告白だった。そして同時に、千年の恋も醒めるほどに残酷だった。
いっそ壊してくれれば、囚われる側からしたらどれだけ楽だろうか。壊されれば、その一瞬で苦痛は終わる。
だが、彼に囚われる人物はこの先ずっと彼の狂気的な愛情といつ壊されるのかという恐怖と希望に脅かされねばならないのだ。
豪奢なベッドに幾重もの鎖で繋がれた哀れな獲物が、彼の楽しそうな声を聞いて悔しそうに呻く。
「…、っ、てめぇ、ヨハン…ッ!」
「許さない?殺してやる?どっちでもいいよ、十代が俺のこと見てくれるなら。それがどんな感情だって、俺は受け止めてみせる。」
優しく諭すようなヨハンの声音に、十代は歯をぎりりと深く深く食いしばった。
さぞかし殺意に満ちているだろう十代の目は、今は伺い知ることはできない。
ヨハンが十代をこの部屋に閉じ込めた時、最初にしたことは、彼の目を目隠しで塞ぐことだった。
彼の目は、人ならざる目。彼の魂の半分を忌々しい精霊が占めていることの象徴。
彼本来の透き通った琥珀の瞳が、不気味な互い違いの色に染まるのが、ヨハンはこの上なく嫌いだ。
十代は決してお前のものにはならないと蔑まれているようなその、瞳が。たまらなく、嫌いだ。
いっそ抉ってしまおうか潰してしまおうかとは何度も考えたけれど、今はまだとっておくことにした。
この停滞した環境に彼が耐えられなくなって。そうして心を閉ざして逃避しようとした時にこそ、彼の目を奪おう。
…そうやって、繋ぎ止める。彼をこの世界に、そして自分に。
「愛してくれ、なんて我侭は言わない。俺はお前といられるだけで、それだけで満足なんだ。」
「満足したなら一人でとっとと死んじまえ、キチガイ。」
投げ捨てられたその言葉に、けれどというかやはりというか。とにかくヨハンは微笑んだ。
だって重要なのは十代がこちらを向いているか否かであって、そこに込められている感情に意味はないのだから。
だからきっと、彼の想いは。
どこまでいっても愛にはならない
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あとがき。
半分ほど書きあがったところでまさかのパソ(キーボード)故障。故障したのがキーボードでよかったよ…
あやうく永遠の未完作になるところでした恐ろしい。
というわけでお待たせしましたリクエストありがとうございます八日さま!お相手・シチュの指定がなかったので、
好き勝手書いてしまいましたがいかがでしたでしょうか…ビクビク
(2010.04.18)