壊せないからこそ、壊したくなる。





「言って分からないから体に言い聞かせる。…これって当たり前のことだろう?」
悪魔の口から紡がれた言葉に吐き気を覚える。
自分が絶対であるかのような物言いに反論しようとしても、喉から出るのは掠れた吐息だけ。
視界すらぼやけるこの様では、奴を睨みつけられているかも怪しい。
否、奴の顔を見なくてすむ、という点では大いに結構なのかもしれないが。
「でもごめんね。少しやり過ぎたね。…でも君がいけないんだよ。あんな男に気を許したりするから。」
さらりと、悪魔の指がアルヴィスの髪を梳く。どこまでも優しい手つきに反してその手は、酷く冷たい。
「一言、謝れば許してあげるって言ってるのに。君って本当に残酷だよね。」
「……ッ、っ、ファン、トム……!」
悔しくて、悔しくて、悔しくて。歯噛みでもしたい気分だったけれど、そんな力すら残ってはいない。

これほどまでに力の差を見せつけられながらも、彼は決して屈しない。
だからこそ、悪魔に魅入られてしまうというのに。
「一言でいいのにね。これが僕の最大限の譲歩なんだけど。…不満そうだね。」
当たり前だ、とアルヴィスは心中で吐き捨てる。この男に謝罪する謂れなぞ何処にも、塵ほどもありはしない。
刺し殺すような視線に、けれどファントムは満足そうに、そして哀れむように微笑む。
簡単に手折れないからこその輝き。しかしながらこうも抵抗を繰り返されると湧き上がってくるのは、呆れにもにた同情。

(何故君は自分で自分の首を絞めていることに、気付かないんだろうね。)

この小鳥は、自分のことには酷く無頓着だ。平然と自らの羽を毟り、醜い人間共に分け与える。
それが許せなくて、もうそんなことが出来ないようにとおまじないをかけてあげたのに、それは一層酷くなるばかりだった。
透けるような澄んだ蒼色の羽が、はらりはらりと落ちてゆく。よりにもよって、腐りきった世界の為に。

「分かった。そんな素直になれない君のために、いいものを用意したんだ。」
その言葉に、アルヴィスの背を悪寒が駆け抜ける。この男のいう”いいもの”が、自分にとって”いいもの”であった例がない。
逃げ出そうにも四肢は全く言う事を聞かず、ファントムが魔力を練り上げる様を見ていることしか出来ない。
発動されたARMは、どうやらディメンションのようだった。どさりと、何かが落ちる音がする。
何だろうか。視界がぼやけて、よく見えない。
ファントムが”それ”に歩み寄る。…人影、らしきものに。そして奴が”それ”の髪を掴み上げたところで、一気に視界も意識も覚醒した。
「………ッ!」
金に近い茶の髪が、所々紅に染まっている。まるで毟り取ろうとするかのように、悪魔は乱雑に『彼』の髪を鷲掴みにする。
「っ、……ナナシ…ッ!」
名を呼ぶと、彼はいつものように、にかっと笑ってみせた。歯を見せて、こんな傷何でもないと笑い飛ばすように。
その、声にならない会話が、ファントムにはえらく不満なようだった。思い切り、ナナシの頭を地面へと叩き付ける。
痛々しい音がしても、まだ悪魔は手を緩めない。うつ伏せに倒れたナナシの頭を、虫か何かにするように踏み潰す。
「や、やめろ…!」
「…なら、分かってるよね?賢い君のことだもの。どうすればいいかなんて、僕が言うまでもないよね?」
満面の笑みに乗せて放たれた言葉に、絶句する。―――抗いようが、ない。見事なまでの、チェックメイト。
リザイン。駒を倒そうと指をかけたところで、制止の声が入る。
「…あかん。アルちゃん。ワイのことなんて気にせんで、ええ。…だから…だから、それだけは言ったら…ッ!!」
再び、ぐしゃりと頭を踏み躙る。部外者は黙ってろ。視線だけで釘を刺す。或いは言葉にするのも馬鹿らしかったのか。
だって、彼の答えは、もう決まっているのだから。
そして痛いくらいの沈黙の中。染み渡るように、その声は響いた。

「……………ごめん、なさい。」


誇り高い彼の投了に、悪魔が哄笑する。高らかに、高らかに。自らの勝利を知らしめようとするかのように。
一頻り笑って満足してから、彼は敗者にキスをした。





君の屈辱の味を、僕にも分けて。





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あとがき。

というわけでファンアルでお仕置きなリクエストでした。まりのさま如何でしょうか。少しでもご期待に添えられているでしょうか…。
ファンアルを書くこと自体がもう久々で…スイッチ入るまでえらい苦労しました。一旦入ったら楽だったんですけどね。

(2010.01.17)





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