暴力描写があります。そして微妙にグロかもしれません。苦手な方はプラウザバックプリーズ。
なんでもどんとこい!な勇者様はずずいっと下へどうぞ




























貫く切先が、俺の愛。





「なんだよぉお、避けるなよぉ〜。あ〜…折角懐入り込めたのになぁ。あそこからアイシアブルーメン詠唱破棄で跳ね返すとかアリかよ。」
「なんだ、当たって欲しかったのか?悪ぃな、隙だらけの太刀筋だったもんで、てっきり避けていいものとばっかり。」
妖艶に微笑むオッドアイ。風の力に乗って空中に浮く彼が、誘うように足を組みかえた。そこに玉座があるかの如く、頬杖までついてみせて。
「そりゃあ悪かったな。けどその減らず口、いつまで持つか楽しみだよ、十代!」
「その言葉、そっくり返すぜヨハン!」
ヨハンが地を蹴る。真ッ直ぐに向ってくる蒼が、唐突に十代の視界から消える。
ひゅ、と微かな風を切る音。背後を取ったヨハンの剣が振り下ろされる音だ!そのまま十代の肩に食い込む筈だった切先はけれどかすりもしない。
体勢を立て直した十代がすぐさま詠唱に入った。
『天の紫煙よ鳴る神よ、巫(かんなぎ)打ちし神解けを…以下略!堕ちよ、ドナシュラッグ!』
通常の言の葉とは別の次元で紡がれた言霊が形を得る。雲の無い蒼天から落ちた雷はまるで生き物のように、ヨハンを打ち据えんと襲い掛かった。
並の戦士であれば避けるのがやっと(それも、奇跡的な確立で、だ)であろうそれを、ヨハンは口に笑みさえ佩いて”剣で受けた”。
そのまま剣を薙ぐと、雷は硝子のように霧散する。名残がばちりと音を立てて、散った。
しかしその瞬間には、十代は次の詠唱を終えていた。寸分違わぬ言霊が、炎柱となってヨハンの足元からそびえ立つ!
やったか、と思ったが消えゆく炎の向こうに蒼が見えて、決定打には至らなかったことを知る。
完璧に言霊を紡いだにも関わらず、袖の端を焼いただけ。掠り傷無いことが実に腹立たしい。
「…ったく。ありえねぇだろ今の避けるとか。あーもう最後まで詠唱すんのなんていつぶりだよ面倒くせえ…。」
「でも、今のはちょぉおっとびっくりしたぜぇ?下位魔法であれだけの威力なんて、正直驚いてんだぜ?」
十代にとってヨハンは、とても相性が悪い。まず武器がやっかいだった。退魔の力を持つ剣らしく、こちらの魔法が悉く通じない。
そして出鱈目な身体能力。おそらく”契約”しているのだろう、悪魔だか天使だか精霊だかは知らないし興味もないが。
魔導士狩りのヨハン。その二つ名に偽り無しというところか。
「そういや十代が最後まで詠唱してんのって初めて見たなぁ。ちょっと待ってこれって俺愛されてる?」
「黙れ変態。そんなに愛されたきゃさっさと喰らって地獄へ行けよ。」
「そりゃあ無理だ。俺は愛されるより愛したいの。お前の身体に剣を突き立てて、引き裂いて、滅茶苦茶にして!溢れ出る血も、腹に詰まってるものも
ぜ〜んぶ残らず俺の腹ン中に収めて!そうやってお前を構成するもの全てを俺の一部にしてぇんだよ!」
十人聞いたら十人ともが顔を顰めそうな、壮絶な愛の告白。無論十代も例外ではなく、眉間に深く深ぁく皺を寄せた。
「げぇ、恋に恋するタイプかよ。うっぜぇ。」
吐き捨てるように十代が言うと、ヨハンはうっとりと笑う。…その目は確かに、恋する者の目だった。
「しっつれいだなああぁ。純真だって言ってくれ―――よっ!」
言うが早いかヨハンが駆ける。鋭く光る切先を、氷塊で弾く。二撃目の突きをいなし、ガラ空きの脇腹に向けて雷撃を叩き込む!
詠唱も言霊も破棄したとはいえ、人間の身体機能を停止させるには十分な威力。勝利を確信して十代は口の端を吊り上げた。


「……捕まえた。」


耳にその呟きが入ったのが先か、脇腹に当てた手を掴まれたのが先か。どちらにしても遅かった。
「!?…ッ、ぐ…っ!」
掴まれた手首を支点に、捻られるようにして地に叩き伏せられる。少し頭を打ったのかもしれない、視界が瞬間明滅した。
それでも無理矢理に目をこじ開けると、白銀に光る切先の向こうにすこぶるいい笑顔のヨハンが見えた。
…何故動いていられる。あの雷撃を受けて、百歩譲って死なないのはいいとして、まともに動ける筈がないのに。
そうして行き着いた仮定に、十代は隠そうともせず盛大に舌打ちした。
「お前自身にも退魔の力があるって、ことかよ…!」
「あ、気付いた?」
へへ、とはにかみながら(凄く気色悪い、と付け足しておこう)馬乗りになってくる。愛おしむように、喉元を掌で覆われた。伝わる体温が、酷く疎ましい。
反撃しようにも、己の魔法はヨハンには通じない。牽制にはなっても、ダメージを与えることが出来ないのでは意味が無い。
―――ならば。己に出来ることは。

「…なんだよ。抵抗しねぇの?」
「生憎、お前を愉しませるようなサービス精神は持ち合わせてないんでね。」
冷静を装いそう返すと彼はふぅん、と無感動に鼻を鳴らし…そして唐突に、刃を肩口につき立てた。
「!…、っ……ッ!!」
流石に声を噛み殺すことで精一杯だった。それでも己の表情が歪んだだけでも満足なのだろう、ヨハンはにんまりと笑った。
「この剣が…俺がどうやって退魔の力を得たと思う?」
「んなの、…知る、かよ…。」
愛想の無い返事をするとぎち、と突き立てられたままの刃が捻られた。容赦無く襲い来る傷みに、砕けそうな程に歯を食いしばって耐える。
「簡単さ。単に血を浴びてたらこうなったんだ。今まで殺してきた魔導士たちの血をさ。まぁ俺は血だけじゃなくて全部完食してんだけど。そんなこと繰り返してたらいつの間にか、魔法が効かなくなってたんだ。想定外だったけど、あって邪魔なモンでもないし?」
一旦そこで言葉を切り、無造作に剣を抜く。刃先を彩る赤にうっとりと舌を這わせて、場違いなくらい優しく、それは優しく微笑んだ。
「…だから頂戴。十代の力も。…いいや力だけじゃ足りない。心臓も脳味噌も脊髄もみんなみんな俺という籠の中に閉じ込めて愛してあげる!これからはずっとずっとずぅううぅっと、一緒だぜ十代!俺って、何て幸せ者なんだろうな!お前を未来永劫独占できるとかさ!あーもう考えただけでも涎出てくるぜ。ああ、愛してるぜ、十代ぃい!」
歓喜の声と共に再び振り下ろされる刃。ずくり、と今度は脇腹に突き刺さった。押さえきれない悲鳴が、今度こそ十代の口から溢れた。
耐えられないのは痛みだけではなかった。こんな男に、永遠に囚われるなどと。逃れることの叶わない、(だって己はその時この世にいないのだから)永久(とこしえ)の煉獄!
悲愴な結末に、十代はまた絶叫した。…否、これが終わりではない。ほんの始まり…始まってすらいない。


はしたなく舌なめずりをして、ヨハンはディナーに手をつける。
―――たったの一品きりだけれど、それは確かに彼にとって、至高のディナー。さぁさぁどうぞ、召し上がれ!!





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あとがき。

二十代様祭り第二弾。いつもながらぬるい戦闘描写…ううう…文才欲しい…。
因みに呪文はドイツ語。アイシアブルーメンはもじってたりしますが。氷花のイメージです。ドナシュラッグはそのまま雷鳴だった筈。
どうでもいいけどはとさんは呪文を考えるのが大好きです。

(サイトアップ09.04.10)





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